Kapitel・2-3

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

聖は何かの書類を片手に
部屋を行ったり来たりと世話しなく動いていた。

「どうした? 珍しいな…」
「洗い直して居たんだよ」
「ん?」
「これ迄の動きを、全てね」

忙しそうにコンピューターを操作し
統計を静かに見守る。
その先に未来が見えてくる。

「聖…」
「どうした、瑠摩?」
「何かが浮かんだのか?」
「まぁ…多少は、な。
 だが…結論付けるには何かが足りない」
「何か、か……」

足りない物、それが何を意味するのか。
意味する存在に辿り着いた時、
きっと何かが見えてくる。

自分達の前に立ちはだかる深い霧が
一気に晴れていく様な気がする。

「何か少しでも良い、変化が欲しい」

聖らしくない呟きを耳にし、
瑠摩は静かに溜息を吐いた。

* * * * * *

「お帰りなさい、早かったわね」
「不況の煽りでも受けたかな。
 あ、夕飯の惣菜は買って来たから」

いつも出迎えてくれる優しい母親。
彼女と二人きりの生活も
これで18年になっている。

隆臥は出来るだけ母に楽をさせたいと
高校を卒業して直ぐ職に就いた。
だが時代の流れに逆らう事も出来ず
派遣会社の紹介で仕事を繋ぐ状態だ。
仕事が有るだけ恵まれているとはいえ、
このままで終わりたくないという思いも有る。

母はまだ、ゆっくりとした自分の人生を
送れている訳ではないのだから。

「正社員も切られる…か。
 まぁ、準社員の方が先だよな。
 ウチも下手して大量解雇されなきゃ良いけど」
「隆臥の契約してる所、危ないの?」
「担当者は口が裂けても言わないって」
「そうよね。でも今は情報が錯綜しているし」
「耳にしたくない情報ほど
 物凄く早く目に付くんだよな…」

仕事が嫌な訳ではない。
だが、時々葵が羨ましくなる。
大学生とは…どんな感じなのだろうか。

「年寄りになってからでも入れるか」
「何が?」
「…独り言」
「そう…」

母は茶碗に炊き立ての白米をよそいながら
優しい笑みを浮かべている。

「大丈夫よ、隆臥は勤勉なんだから。
 大学でも何処でも入れるわ」
「何だ、筒抜けか」
「これでも母親ですから」
「母親には敵いませんよ、全く…」

彼女の口調や微笑に触れると
苦笑しか浮かばなくなる。
本心から敵わないと、隆臥は笑った。

「折角の料理だもんな。
 やっぱり笑いながら食べるのが一番!」
「そうそう。そう言う事よ。
 笑顔のビタミンは充分摂らないとね」

辰風家の食卓に
春を呼び込む様な明るい笑い声が戻っていた。
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