Kapitel・2-5

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

「何だよ、停電?」

急に外が暗くなった。
一瞬で闇に包まれるとは
この様な感じなのだろうか。

「母さん、足元が危ないから…」

そう言い掛けてハッとする。

其処に居る筈の母親の気配が無い。
闇間に時が溶け込んでいく空間。
以前にも感じた事が有っただろうか。
この不気味さと不安は。

「…誰か居るのか?」

不意に感じた存在。
隆臥の勘は闇の先に何かを察知する。

「誰だっ?!」

彼の叫びに呼応する様に
闇の手がゆっくりと空間を侵食し始めた。

* * * * * *

葵と江淋が異変に気付いたのは
これと程同時刻であった。

尤も、彼女が
闇の異変を的確に感じ取っている訳ではない。
まだ、其処までは覚醒していないのだから。

「江淋。隆臥の家の近く…」
「そうみたいだな」
「何か遭ったんだわ」
「俺は今から隆臥の家に向かう。
 お前は…」
「私も行くから」
「…そう言うと思ったよ」

やや呆れた表情ながら
江淋は素早く携帯電話を取り出した。
この辺りは学習能力の高さである。

「緋影さん?」
「あぁ」

2コールで緋影に繋がった。
手短に2~3事伝えるとそのまま切る。
ものの数秒の出来事だ。

「今すぐに来る。誠希もだ」
「じゃあ、皆で一緒に!」
「現場へは俺と緋影で向かう。
 お前は誠希と留守番だ」
「…仕方が無いわね」
「当たり前だろうが」

少し怒った表情を作り、
江淋は彼女へ自重を促した。
そうでもしなければ、彼女の事だ。
誠希の制止を振り切ってでも
現場に突撃するのは目に見えている。

「急ごう」

江淋の言葉に、葵は力強く頷いた。

* * * * * *

2人が現場に到着すると
瞬時に直ぐ側の空間が歪み始めた。

「えっ?」

葵が慌てて其方に視線を向けると
何事も無かったかの様に
誠希と緋影が姿を現した。

「やぁ、驚かせて済まない。
 火急の用だからね、使っちゃったよ」
「誠希さん…?」
「テレポーテーション。
 便利なんだけど、
 目立つから普段は控えてるんだ」

誠希は笑顔を崩さずに
葵の周囲を探り始めている。

標的にされているのは隆臥だ。
彼女との接点は多い。
隆臥を狙うと見せ掛け、
葵を攫おうとする輩が潜んでいても
何らおかしくはないのだ。

「じゃあ、2人は幼馴染殿の救出へ!」
「解った」
「ちゃんと待ってろよ、葵!」
「…隆臥をお願いね!」

葵の声援に手を上げて答えながら
二人は闇に溶け込む様にして消えていった。
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