Kapitel・2-6

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

轟音が響き渡る。
地震でも起こったのだろうか。

隆臥は目が利かない位に深い闇に包まれていた。
手探りで何とか母親の所まで辿り着き、
気を失った彼女を守っている。

「これじゃ動けない…。
 もしも地震が起こったんだとしたら…」

何とかして母親だけでも救いたい。
隆臥の思いは淡くその体を包む光となって
2人を闇夜から守っていた。

* * * * * *

閉ざされた空間の中で燃え続ける
葵の幼馴染みの家。
誰一人として目の前の出来事に
気付いていないと云う異常。

正視するのも酷な状況下。
そんな中、江淋と緋影は正面から強行突破した。

「所々家が揺れているな」
「地震か?」
「まさか。誠希が感知してないんだぞ」
「それもそうだな。
 じゃあこの闇の影響か」
「そう云う事だ。早く救出しないと…」

先へ進もうとする2人を遮る様に
突然姿を現す炎の柱。

「こんな時はいつも思い出すな…」
「江淋……」

過去の出来事がオーバーラップする。
卑屈な笑みをうっすらと浮かべ、独り言は続く。

「俺には似合いの場面だが…」
「……」
「同じ轍は踏まないって誓ったんだよ」

江淋の目に迷いなど無い。
その言葉と瞳の輝きに
緋影は安堵の息を漏らした。

玄関からどれだけ離れたか、
台所らしき場所が見える。
其処で淡く輝く光。

「?」

江淋は目を見開いた。

「光、水色の?」
「本当だ。一体…?」

水色の光が見える。
ドームを形作っているのだ。

「隆臥…?」

確かに彼は見た。
ドーム状の光の中、
隆臥とその母らしき女性が横たわっているのを。

「隆臥!」

江淋は急いで駆け寄り、隆臥を抱き起こす。
彼がその中に入った事により、
薄く形成されていたドームが強化された。

『この光は、霊気!
 これは…隆臥の生み出した結界だ!!』

やはり敵の狙いは隆臥だったのだ。
隆臥はこの世界に転生した光一族。
その正体を敵に知られ、狙われたのだろう。

「隆臥、俺が判るか!?」
「…江淋?
 何故、此処に居るんだ…?」
「話は後だ。出るぞ」
「…どうやって?」
「俺に任せろ」

江淋はそう言うと緋影を目配せで呼び、
隆臥を背負った。
母親は緋影が担ぎ上げようとした、が。

「…江淋」

彼は何かを察知した。

「残念だが、このまま救出とは行かない様だ」
「邪魔が入ったか…」

闇に紛れていた殺気。
その気が姿を現そうとしている。

『奴か、それとも…?』

江淋の眼差しが少しずつ鋭さを取り戻す。
エリオスが見せた恐怖を抱かせる深く蒼い瞳。

「江淋…?」
「隆臥、その光の中に入っていろ。
 緋影はコイツと母親を…」
「解っている。敵は任せた」

炎が生き物の様に鎌首を持ち上げ
江淋を飲み込もうと迫って来るが
彼は一歩も退こうとしない。

「江淋っ?!」

炎と衝突する瞬間、彼の全身は
蒼い光に包まれて見えなくなった。
Home Index ←Back Next→