Kapitel・2-8

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

畳み掛ける様な激しい剣の動きに
ヘイネルの鎧は悲鳴を上げていた。
小さな亀裂が大きな波を呼び込む。

「……」

直撃をかわしている筈なのに
衝撃だけでダメージを受ける。
ヘイネル自身も何かを感じていた。

「この世界は…随分不便ですね」
「当たり前だ。
 元々、戦場じゃないんだからな」
「ならば、此処は本来
 貴方が住むべき世界じゃない。
 そう言う事ですよね、【義天子】?」

江淋の動きに一瞬の躊躇が生まれた。

「江淋っ!!」
「?」

目の前に居た筈のヘイネルの姿が
彼等の視界から消えていた。

「逃げたか…?」

江淋は精神統一し、ヘイネルの気配を探る。
結界内の緋影も同様に探るが
この家の中に彼の気配は無い。

「まさか…?」

江淋と緋影が視線を合わせた時、
外から何かの衝撃が流れ込んで来た。

* * * * * *

「こう来ると思ったんだっ!」

憎々しげに言い放ちながら
誠希は防御に徹していた。
やはりヘイネルは葵を狙って来ている。

「御丁寧に部下も引き連れてか!」
「私の辞書に【失敗】の二文字は無いんです」
「じゃあ追加しておけ!」

憎まれ口を叩いてはいるものの
正直、防戦一方で余裕は無い。

葵は何も言わないが
激しい怒りを秘めた彼女の瞳は
真っ直ぐにヘイネルに向けられている。

『これで彼女に怪我をさせようものなら
 江淋や緋影に顔向け出来ないだろうが…っ!』

家の内部とはどうも空間を断絶させられたらしく
彼等の脱出には時間が掛かりそうだ。
然も先に閉じ込められていた2人の容態も気になる。
戦列に復帰しろと言うのは正直、酷だ。

『本当にコイツだけは…
 この性格の悪さだけは許せん…』

誠希は、挑発するかの如く攻撃を繰り返す
【闇一族】の軍勢に梃子摺っていた。

すると。

「えっ?」

それは正に【炎の稲妻】と呼ぶに相応しい現象だった。
結界にまとわり着く兵士達を撃ち抜き、飲み込んでいく。
業火が結界の周囲に生み出されたのだ。

「これ…は……」
「漸く現れましたか」

誠希や葵とヘイネルの間に立っているのは
紛れも無く、瑠摩の姿だった。
真紅の鎧に身を包み、静かに佇む。
その手には業火の源である
朱色の槍が握られていた。

「お待ちしていましたよ、【戒天子】」
「お前が出てくるとは、ね。
 余程其方は【駒不足】らしい」

瑠摩はそう言うと、軽く鼻で笑っている。

「真っ向勝負の出来ない
 役立たずを出してくるんだからね」
「……」
「此方も多忙なんだ。
 さっさと終わらせようか」

今迄誰にも見せた事の無い高圧的な態度。
瑠摩は不敵な笑みを浮かべながら
軽く槍を構えてみせた。
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