Kapitel・2-9

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

瑠摩は硬く瞳を閉じたまま
槍を構える姿勢を崩さない。
周囲の空気でさえ
僅かな動きを警戒する様な気迫。

「その腕が落ちていないか
 確かめて差し上げましょう」

ヘイネルはそう言うと
指をパチンと鳴らした。
瞬時に動く兵士達。

「…瑠摩様」
「誠希さん……」

誠希は今世で瑠摩と出会ってから
彼が戦う姿を一度も見ていない。
戦わせない様にしていたのも確かだが
彼が戦士の正装をした事もない。
目にするのは今回が初めてなのだ。

勿論、彼の腕を信じてはいる。
だが、どんな人間にも必ずある
【ギャップ】だけは
そう容易くは埋められない。

知らずに誠希は震えていた。

* * * * * *

「気配は全く感じないな。
 奴等、何処に…?」
「緋影、後回しにしろ」

江淋はそう言うと普段の姿に戻り
そのまま隆臥を背負いだした。

「意外と重いな、コイツ…」
「江淋」
「脱出する」
「どうやって?
 外部には奴等の結界が残っている」
「もっと【普通の】頭を使えよ」

江淋の声に促される様に
緋影は隆臥の母を背負う。
2人共意識を失っている為
感じ取る体重はかなり重い。

「瞬間移動を使おうとするから
 奴等の結界が邪魔になる。
 第一、この2人を保護したまま
 そんな大技を使うつもりか?」
「…それは」
「空間の歪に落ちたら助からんぞ」
「だとしたら…」
「普通に出れば良いんだよ」
「普通にって…この業火の中をか?」

緋影の言う通り、家の中は既に火の海である。
この中をそのまま歩いて渡るつもりなのだろうか。

「ギリギリまで俺の結界で保護する。
 だが、裏口に着いた瞬間に解除するからな」
「…それしか無さそうだな」
「外の応援を期待出来ないとなると
 内側から強引に空けるしかない。
 霊気は封じられてるんだ。
 テメェの腕に賭けるさ」

江淋はそう言って腕を捲り上げた。
不利な状況ほどこの漢は笑顔を見せる。
確固たる自信。
それは何処から生じてくるものなのか。

「なら、一刻も早く裏口に向かおう」

緋影も漸く頷き、歩を進める様にと促した。

* * * * * *

「?!」

瞬殺。
その単語が脳裏に刻み込まれる状景だった。

瑠摩は大きな動きを全く取っていない。
微かに槍が動いた程度だ。
だが、その矛先が接触した瞬間に
敵兵の姿は消し炭と化した。

葵の目には槍の動きすら映っていない。
その位微かなアクション。

「補充はどうした?
 もう兵隊を使い切ったのか?」

涼しい顔の瑠摩に対し
ヘイネルは憤慨の余り
目を充血させている。

「準備運動にもならんな」
「貴様……」
「漸く本性を表したじゃないか。
 道化師のヘイネル」

瑠摩の矛先は寸分違わず
ヘイネルを指し示していた。
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