Kapitel・3-1

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

葵と隆臥は目を白黒させながら
案内されるままに建物内を奥へと進んでいた。
まるで【おのぼりさん】状態で
恥ずかしい事は重々承知のつもりなのだが
湧き上がる好奇心には抗えない。
隣に居る江淋は、と云うと
2人を見なかった事にすると決めた様である。
澄ました顔のまま何事も無かったかの様に歩を進めた。

「此方でお待ち下さい」

ビルの案内嬢はそう言って一礼すると
音も立てずにその場を後にした。

「…流石は超一流企業の受付嬢。
 立ち居振る舞いが完璧だ」

隆臥はそう呟くと何度も頷いてみせる。
呆れ顔の葵と無表情の江淋。
3人が待っていた時間は3分と経たなかった。
部屋の奥から誠希が姿を現したからだ。

「ようこそ。こうして訪問してもらえて嬉しいよ」
「誠希さん」
「早速だけど、これを2人に渡しておこう。
 このビル内はフリーパスのIDカード」
「え? 良いんですか?」
「これからも何度か来てもらう事になるからね。
 入館の度に足止めさせる訳にはいかないから」

微笑を浮かべたまま、誠希はIDカードを葵と隆臥に手渡した。
用意周到と云うか、手際の良さに感嘆の息を吐くしかない。

「では改めて、中に案内しましょう。
 此処から先は極一部の人間しか出入り出来ないんだ」

誠希に促されるまま、3人はその場から移動した。

* * * * * *

「…すげぇ」

部屋一面に広がるモニターの数々に
隆臥は思わず声を漏らした。

様々な情報が映し出されては消えていく。
まるで時の流れをそのまま再現したかの様に。

部屋の中央に配置されている巨大コンピューターと作業テーブル。
その先に二つの人影が見えた。

「瑠摩様、御案内しました」
「御苦労様、誠希」

やがて静かに姿を現す人影の一つ。
瑠摩はニコリと微笑み、軽く会釈した。
葵と隆臥も釣られてか、慌てて会釈を返す。

「態々こんな所に呼び立ててしまって済まなかったね」
「…済まないなんて思ってもいないクセにな」
「江淋、そう云う事を言うなって」
「事実だろ?」
「まぁ…否定はしないけどね」

義理とはいえ、流石に兄弟と云った所か。
普通ならば大財閥総帥の息子に対するなら
もう少し物怖じしそうなものだが、
江淋の言動には少しもそう云う要素は含まれない。

「本題に入ろうか」

瑠摩のこの言葉に、もう一つの影が反応した。
ゆっくりと近付き、その姿を露わにしていく。

「こうして会うのは初めてだな。
 【智天子】天寺 聖だ」
「貴方が…【智天子】、さん…」
「聖で良いよ、お嬢さん」

聖はそう云って笑みを浮かべた、が
その表情は瑠摩や誠希とは違い
温かみが感じられないものだった。
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