Kapitel・3-4

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

その頃、江淋は只一人
部屋で瞑想に耽っていた。
様々な雑念を振り払う為に、彼は時々
こうやって精神を統一させる時間を持っていた。

「…ふぅ」

ゆっくりと目を開け、部屋を見回す。
今、自分が何処に居るのかを確認する事で
前世の記憶を封じ込める事も出来る。

「さて、どう動く?」

考えてはみたものの、流石に敵の動きを
思い描く迄には至らなかった。
こういう作業は苦手だと舌打ちすると
江淋は慣れた手付きで煙草を取り出した。

「そう言えば、暫く吸って無かったな…」

見慣れた筈の煙草のパッケージをマジマジと眺めながら
江淋はふとここ最近の事を思い出した。

「葵と出会ってからか。
 あまりあの事件を思い出さない様になっている…」

今の自分を生み出した忌まわしき事件。
両親を目の前で奪われ、
血を分けた双子の兄は行方不明のまま。
生涯忘れる事は無いと思っていた。
それが例え、片時であったとしても。

「…今度は、喪う訳にいかねぇからな」

煙草を咥え、火を点ける。
懐かしい味が紫煙と共に咥内に広がっていく。

「……」

暫し無言で煙草を咥えたまま
江淋は険しい表情で窓の外を見ている。

落ち着かないのだ。

魁淋かいり。まだ生きていてくれるよな?」

誰にも言い出せずにいた。
普段は心の奥に仕舞い込んだ兄への思い。
葵と共に過ごしていると
時折、その名前を口にしそうになる。

「魁淋……」

江淋の心に巣食う闇は、まだ明けそうにない。

* * * * * *

江淋から教えられた彼の過去。
行方不明となっている双子の兄。
名前は【魁淋】。

「双子だが、似てないと思う」
「そうなの?」
「あぁ。確か、二卵性双生児らしい。
 そんな事を言われた記憶がある」

苦しそうな表情を浮かべながら
それでも全てを打ち明けてくれた
江淋の姿を思い出すと
今でも胸が痛む。

今の魁淋の姿は誰も知らないままなのだ。

「この時代で人が一人居なくなる事…。
 それが、こんな簡単に行われるなんて…」

そう呟き、葵はふと或る出来事を思い出した。

「あったじゃない!
 隆臥が襲われた時の事。
 あれ、正にそうじゃない」

江淋がそれに気付かない筈がない。

「闇一族に攫われたんだ、魁淋さん…。
 だから江淋は闇一族と戦って来たんだ。
 お兄さんを取り戻す為に…」

光源八剣士としてだけではない。
一人の人間として、男として、弟として
全てを賭けた戦いの日々。

「再会…出来ると良いな。
 江淋と魁淋さん……」

そう願わずにはいられなかった。
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