Kapitel・3-5

光源八剣士・伝説 人の章 (現代編)

会合から10日ほど経った或る日。
葵がいつもの様に大学へ向かう途中で。

「あれ?」

最初は江淋だと思った。
しかし、雰囲気が少し違う。
服装、だろうか。
ラフな服装を好む江淋とは違い
目の前の男は瑠摩の様に
キッチリとした格好をしている。

「…もしかして」

以前、江淋が話してくれた
行方不明の双子の兄。
名前は確か…。

かい……さん?」

彼女の声が聞こえたのか。
江淋に似ていると思われた男は
此方側を振り返った。

「あ、えぇ…っと……」
「随分と懐かしい名前を聞いた」
「じゃあ、やっぱり…?」

正面から向かい合うと
確かにあまり江淋とは似ていない。
やはり気配が似ていたと云う事なのだろう。

「今はその名前を使っていないのでね。
 そう呼ぶ者も居ない」
「え? でも…」
「会いたかったよ、辻谷 葵さん」
「?」

まだ名乗っていなかった筈。
どうして自分の名前を知っているのだろうか。
葵は事態が呑み込めずにいる。

「江淋から私の事を何か…?」
「いや」

男は涼しい笑みを浮かべている。

「弟とは彼是20年以上会っていない。
 勿論、会話も無い」
「…?
 じゃあ、どうして…?」
「我々にとっても君の存在は貴重なんだよ。
 辻谷 葵さん。いや…【仁天子】」
「!!」

その瞬間、辺り一面が眩い光に包まれた。
葵は思わず目を閉じ、身構える。

「怖がらなくても良い」

男の声が優しく響く。

「君には危害を加えない。絶対に」
「貴方は…一体……?」
「我が名は沙羅萬陀サラマンダ
 闇一族を束ねる者なり
「闇一族の当主…。
 沙羅萬陀…。
 江淋の、お兄さんが……」

俄かには信じられない。
否、信じたくない事実だった。

江淋は今も必死にその行方を追っている。
行方不明となった5歳の時からずっと
兄、魁淋を捜し続けている。
彼が闇一族の当主となり
自分と敵対している事も知らずに。

彼は、魁淋は…
いや、沙羅萬陀は知っているのだろうか。
江淋の動向を。
江淋の切なる思いを。
それ以上に。

『戦う事になるの?
 たった二人きりの家族なのに。
 実の兄弟なのに……』

葵の心配は其処に在った。
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