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光源八剣士・伝説 天の章 (神代編)

どれ位時間が経ったであろうか。

「そろそろ帰らないと…」
足早にその場を去ろうとした。
その時、不意に彼女の前を人影が現れた。

「誰っ!?」
「…お前こそ、誰だ?」

見た事も無い青年だ。
漆黒の髪と瞳 浅黒い肌。
光一族の風貌ではない。

「金の髪、光一族か」
「……」

青年は光一族を知っている。
敢えて「光一族」と呼ぶ辺り、
この青年はもしかすると。

「中立地帯と云え、
 女が一人でこんな所に居るとは。
 驚いた度胸の良さだな」

「貴方は…
 一体、誰なんですか?」
エリスは怒りを露にして言った。

「これは失礼した。
 何しろ見た目通り無骨者なんでね。
 俺はしがない闇一族の戦士だ。
 名は…【アリシオン】。
 これで良いか?」
「…エリスと申します」

礼儀正しく挨拶するエリス。
本人に自覚がないが、
これでは自分の身分を
明かしている様なものだ。

「エリスか。善い名だな」
「貴方も変わった名前をお持ちですね」
「そりゃそうだろう?
 闇を司る者の名前だ」

彼は動じる事なく言い放った。

「…闇、一族?」
「あぁ。隠す迄も無い」

「…私を、食べちゃうのですか?」
「?」

「…そう、聞いてたもので」
「俺達は化け物でも何でもない」

アリシオンはキッパリと否定した。

「…そうですか。安心しました」
「物知らずだな、お嬢さん」
「!!」

「まぁ、あの【光赦菩来】の妹君だったら
 仕方が無い話か」

アリシオンは紳士的だった。
エリスは不思議な感覚に襲われた。
自分の周りにいる人達よりも
彼の方が余程 紳士である。

水浴びでもしていたのだろう。
その全身に刻まれた傷跡が生々しかった。

慌てて手で顔を覆う少女に
アリシオンは苦笑を浮かべた。

「何だ? 男の裸を見慣れてないのか?」
「…は、初めてなんです」
「ふ~ん…。結構【窮屈】な生活なんだな」
「…そう、思いますか?」
「俺は耐えられないね」
「でしょ?!」

少女の反応に
今度はアリシオンが驚いた様だ。

「…へぇ。
 噂で聞くお姉さんとは
 随分性格が違うんだな」
「…当たり前でしょ?
 私は私です…」

「此処は気に入りの場所か?」
「はい。貴方も?」
「そうだな。
 俺の様な男には
 似つかわしくない場所ではあるが、
 落ち着くんだ」
「…私も、同じです」
「気が合うな」

アリシオンはふと笑みを浮かべた。
邪心のない自然な微笑。
漆黒の瞳が真っ直ぐに少女を見つめていた。
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