Senat

光源八剣士・伝説 天の章 (神代編)

光一族の宮殿。
その一角に在る円卓会議所。
元老院と呼ばれる4人の老人達が
その場所で常に何かを話し合っている。

光一族に於いて
絶対的な権力を掌握している元老院。
光赦菩来でさえも
彼等に意見をする事は許されない。

彼等がエリスの行動を
何も把握していない筈が無い。
意見する事は可能だが
敢えて見ぬ振りを決めていた。
これから起こり得る可能性の方が
彼等には価値が有ったのだ。

その気になれば
光赦菩来を蹴落とす事も出来るが
彼等はそれさえも行わない。
中心とされる存在の背後から
全てを掌握する事。
それが、彼等の手段であり目的である。
そして、今回も。

* * * * * *

光赦菩来は宮殿の奥で静かに時を感じていた。

其処に『居る』事に大きな意味を持ち、
その理由を疑う事などしてこなかった。
空しさを感じるのを何処かで恐れていたからか。

変動を快く思わないのがこの種族の特徴であり
そう云う意味では正に彼女の不動は【象徴】に相応しい。

「いずれ、均衡は破られる。
 どんな時も止まる事はなく、動き続ける。
 力で抑え切る事は…出来ないもの」

彼女の瞳には微かではあるが
『未来』が映し出されていた。
だが、それを多言する事は許されない。
彼女に力を与えた存在、
彼女を産み落とした存在との、約束故に。

「エリス…。
 貴女は恋を知って、輝きを増した。
 それが許される貴女と、許されない私…」

羨ましいのだと、思う。
奔放に見えて、エリスはきっと誰よりも傷付いている。

昔からそうだった。
幾ら侍女が止めようとも
思い立ったら彼女は立場の垣根を
いとも簡単に飛び越えてしまう。

光一族にも貧困の差は歴然として存在し、
スラム地区が其処彼処に存在している。
彼女はそんな場所にも恐れる事無く飛び込み、
友人を作っては嬉しそうに姉に報告するのだ。

外の世界を知らぬ姉に
その素晴らしさを伝える為。
どんなに辛い出来事が起こっても
彼女が歩を止める事は無い。

「彼女の輝きは…【光】そのもの。
 その慈愛が確実に
 新たな世界を生み出している」

姉として、自分が出来る事は見守る事だけ。
その恋を応援してやる事だけ。

「どうか、幸せになって…エリス。
 貴女の愛する人を
 その慈愛の光で包んであげて」

光赦菩来は静かに目を閉じると
小さく何かを呟いた。

それは、彼女だけに許された【祈り】の言葉。

唯一人、愛する妹に送られた…祈り。
彼女がそれを受け取れたかどうかは
この時、まだ誰も知る事は無かった。
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