Frieden

光源八剣士・伝説 天の章 (神代編)

「和睦、ですか」
「そうだ」

意外な提案が闇一族の長の口から出た。
アリシオン始め、将軍達は皆 何も言わない。

「それを運命付けられている、と言えば
 確かに聞こえは良いが。
 我々が行っているのは
 只の大量虐殺に過ぎぬ。
 殺したから殺される、それの繰り返しじゃ」

長は深く溜息を吐き、更に呟く。

「だが、光一族は族長に取次ぎをする気配が無い。
 これは一体どう解釈して良いのやら…」
「長、返答は何と? 誰からの返答になっておりますか?」

アリシオンは恐れる事無く長に問う。
エリスから光一族の支配階級については
多少なりとも話を聞いていたからだ。

「元老院からの返答と有る。
 それ、即ち長の言葉と…」
「真の長である光赦菩来ではなく、ですか」
「随分と舐めたマネを…」

次第に将軍達がいきり立つ。
無理も無いだろう。
自分達の尊敬する長を虚仮にしているのだから
心穏やかに保つ事など不可能である。

「アリシオン」
「はい、長」
「第一将軍のお前に、敢えて命じる」
「何なりと」

長は暫く、何も言わなかった。
言葉を躊躇っている様にも見える。

「光赦菩来殿の心を、直にお聞きしたい。
 貴君は戦を望むのか、否か。
 その役目、お前に頼みたいのだ」
「長! 敵陣に将軍お一人を送られるとっ?!」
「アリシオン殿…」

アリシオンは驚く事も取り乱す事も無く
黙ったまま、長を見つめている。

「光赦菩来殿のお言葉を、
 頂戴して参れば宜しいのですね?
 承知致しました、我が主」
「アリシオン殿っ!!」

勿論、他の将軍達は猛反対である。
あくまでも休戦を拒む元老院の姿が在る以上、
無事に済む任務ではないからだ。

しかし、アリシオンはこの時
エリスの事を考えていた。
彼女の願い、彼女の想い。

戦さえ無くなれば、誰もが幸せになれる。
互いに信じる、未来。
それを叶えたい、と。

「皆に言付けておく。
 万が一、と言う事も有る。
 俺が戻らぬ時は…休戦調停にしくじったと」
「アリシオン殿…」
「最善は尽くす。だが、これも相手居てこその話。
 我が主、その時は…申し訳有りません」
「全てをお前に託そうぞ、アリシオン」

アリシオンは恭しく頭を垂れると
静かにその場を後にした。

* * * * * *

「今日は随分と星が早く流れるのね…」
「何か、見えて?」
「いいえ。私は姉さんと違って
 未来を読み解く事は出来ないから」

エリスはそう言って微笑もうとしたが、
何か異質なものを感じ、顔を顰めた。

「どうしたの、エリス?」
「…何でも、無いわ」

彼女は無理矢理笑みを作って見せる。
光赦菩来は心配しているが、
それ以上尋ねる事も出来ずに居る。

『新たな、命…。
 アリシオンと私の絆が…
 私の中で芽生えている……』

エリスは感じ取っていた。
光と闇、その垣根を越える存在が
確かに息づいた事を。
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