その事実が恐ろしくて、
自分の胸の内に秘めていた。
だが、何時までも逃げていてはいけない。
俺は裁かれなければならないのだ。
あの男によって。
そして…俺が犯した【罪】は…。
光一族の宮殿には
【母の庭】と呼ばれる小さな庭園が在る。
正門の程近く、その庭は存在していた。
正門を通され、アリシオンは一人
母の庭で待たされていた。
こうして闇一族の自分が光一族の長と
謁見出来ると云う事に驚きを隠せないが
今は使命を全うする事だけを
念頭に置かなければならない。
そんな時であった。
「此処で何をしているの?」
身形は上品な少年が、此方を見つめていた。
光一族の一員としては珍しい
深紅の髪と瞳を持つ少年。
「光赦菩来様にお目通りをな」
「光赦菩来様のお部屋に行くの?」
「行きたいのだが、どうしたものかと…」
「じゃあ、案内してあげるね」
「君が?」
「うん」
「…そうか。有難う。
私の名はアリシオン。君は?」
「ワイバード! ワイバード=フレイア!」
「そうか…フレイア伯の子息が君か」
アリシオンの大きな手が優しく
ワイバードの頭を撫でる。
「フレイア伯も立派な将軍で在らせられるが…
君はきっと、父上を超える存在となるだろう。
どんな未来が待とうとも、君ならば大丈夫だ。
君に宿る炎の霊気ならば」
ワイバードは嬉しそうにアリシオンを見つめ、
やがて二人は手を繋いで
光赦菩来の待つ部屋へと向かった。
全ては、其処で終わる筈だった。
それよりも数刻前。
光赦菩来は一人息子のシャラと共に
自室からは離れた場所に居た。
先読みの儀式は2日後に控えていたのだが
元老院が儀式の繰上げを決定した為だ。
「お母様…」
何処か不安げに自分を見つめるシャラ。
まだ齢5歳とはいえ
シャラには周囲の変動を見通す力が備わっている。
彼は何か只ならぬものを感じ取ったのだろう。
「シャラ…。お前はこの光赦菩来の血を継ぎし者。
いずれは光一族を守る為に戦わねばならぬ者です。
どんな事が遭っても、怯んではなりません。
敵は其処彼処に息を潜めて隠れているのですから」
「解りました、お母様」
シャラは笑顔を浮かべようとするが
その目が一瞬、何かを捉えた。
「お母様…」
「何ですか? シャラ」
「星が…堕ちます……」
「…どんな星なのですか?
解りますか? シャラ」
「大きな…とても大きくて、
温かな光を抱く星…」
それが何を意味しているのか
光赦菩来には瞬時に理解出来た。