Verschwinden

光源八剣士・伝説 天の章 (神代編)

闇一族の将軍、アリシオンは
光赦菩来様暗殺の嫌疑を掛けられ
地下牢に幽閉された。
襲撃の際、フレイア伯の嫡子を人質に取り…。

* * * * * *

「失礼します」

エリス叔母様に部屋へ招かれた私は
彼女から或る一つの頼まれものをした。
牢屋の合鍵を渡され、それを使って
アリシオン様をお助けする様に、と。
私は勿論、その計画に賛同した。
アリシオン様の事は叔母様から話を聞いていたし
私自身も尊敬する武人の一人だからだ。

「私は…貴方の手を汚して迄
 あの人を助けたいと願っている…」
「叔母様…」
「それでも、全てを変えたい。
 この世界を、もっと住み易い世界に…」

叔母様はきっとその可能性を
アリシオン様に見出したのだ。

「大丈夫です、叔母様。
 私は必ずアリシオン様にお会いして
 これをお渡しします。
 ワイバードにも手伝ってもらいますから」
「ワイバードは…元気にしているのかしら?」
「怪我はまだ治っていないみたいです…」

元老院が配備した憲兵から
アリシオン様をお守りする為に。
私よりも2歳年下のワイバードは
必死に彼等と戦ったらしい。
貴族階級の家柄で名門フレイア家の嫡子。
確かに…普通の子供よりは
剣技に優れてはいるだろうが。

「私は…ワイバードの心の方が心配です」
「叔母様……」
「あの子が自分を責めなければ良いけど…」
「…大丈夫です、ワイバードなら。
 私が付いてますから」
「シャラ…。どんな事が遭っても
 ワイバードの傍に付いていてあげて下さい」
「勿論です、叔母様!」
「…有難う、シャラ」

エリス叔母様が何故この様な事を言われたのか
残念ながら当時の私には理解出来ていなかった。
叔母様には解っていたんだろう。
我々の…未来が。

* * * * * *

ワイバードと二人でコッソリと忍び込んだ地下牢。
初めてお会いするアリシオン様は
想像以上に大きな存在感を持っておられた。

「…君は?」
「光赦菩来の息子、シャラです。
 貴方をお救いに参りました」
「…私を?」
「はい。どうかこの鍵で牢から出て下さい」
「それは出来ない」
「…何故?」
「これは【罠】だ。
 エリスが君達に頼り、鍵を用意する事も
 奴等には既に周知の事だろう」
「だけど…此処に居たら貴方は……っ」
「ワイバードだったね。
 君には嫌な思いをさせてしまった。
 本当に済まないと思っている」
「アリシオン様……」
「エリスに伝えてくれ。
 私は闇一族の将軍として最期を全うする。
 だが君は…一人の女性として幸せを掴め、と」
「アリシオン様……」
「シャラ。そして、ワイバード。
 その幼き目で、私の死に様を見届けておくれ。
 そして何時の日か必ず…
 この無意味な争いに終止符を打ってくれ」

私も、ワイバードも…
涙を堪えて頷くしか出来なかった。
止められなかった。
助けられなかった。

アリシオン様の公開処刑は…
2日後、広場にで執行された。
斬首刑だった。

そして…その直後に
エリス叔母様は宮殿から姿を消した。
Home Index ←Back Next→