私の望みを叶えようと
自らの危険を顧みず、
あの人に会いに行ってくれた。
そして、その願いが叶わなかった事を告げる為
真っ赤に泣き腫らした目で部屋を訪れた。
どんな思いで、あの子達は私の元へ…。
シャラ、そしてワイバード。
アリシオンも又、貴方達に会えて
きっと喜んでくれていると思う。
光一族の未来も、捨てたものじゃないって。
「エリスさん、大丈夫かい?
あんた…お産初めてなんだってね?」
「大丈夫です。皆居てくれるから」
「そう言ってくれると有り難いね。
こんな時代だけどさ、良い子を産みなよ。
何時の時代だって、子供は宝なんだから!」
「えぇ…」
私はきっと、姉よりも幸せなんだろう。
愛する人との絆、この子が居てくれるから。
此処で、誰も知らないこの地で…
一からやり直して生きましょう。
エリスはスラム街の一つに身を隠し
其処で全てを捨てて生活を始めていた。
町の人々は身重の彼女に優しく接し
彼女も又、そんな人々に素直に甘えた。
宮殿では知りえなかったであろう出会いが
又一つ、彼女を強くしていた。
そして…。
「エリスさん、おめでとう!
男の子だよ!
精悍な顔をしてるよ。
この子はきっと良い男になる」
粗末な小屋、設備等整ってはいなかったが
彼女は人々の助力を得て
アリシオンとの間に芽生えた生命を
この世界に誕生させる事が出来た。
産婆の経験を持つ女から
生まれたばかりの赤ん坊を託される。
そっと抱き上げると、
子供は天を裂かんばかりに泣き出した。
「元気な産声だね~!」
「うんうん、男の子はこうじゃないと」
誰もがこの子の誕生を祝ってくれた。
光と闇の間に生まれし忌み子と
この子を蔑む者は誰も居ない。
「…リオス」
エリスは弱々しく微笑み、
何度も愛しい我が子を撫でてやる。
「エリオス…。
どうか、逞しく育って…」
「エリスさん?」
「…エリオスを、宜しくお願いします……」
「エリスさん? エリスさんっ?!」
周囲の音が突然小さくなる。
目の前もだんだん暗く、朧気になる。
エリオスの体温だけが
エリオスの鼓動だけが
辛うじて感じられた。
「エ…リオス……」
『貴方は一体、どんな風に育っていくのかしら。
お父様の様に、強く逞しく…そして優しく。
そしていつか、愛する人と巡り合えたら…
その人の為に、精一杯生きていきなさい。
貴方の幸せを…
お父様も、私も…心より願っているわ……』
エリオスの泣き声が一層激しくなる。
だが、どんなに泣き叫んでも
その声がエリスに届く事は…もう、叶わなかった。