Orphans

光源八剣士・伝説 天の章 (神代編)

今でも思い出す。
私の望みを叶えようと
自らの危険を顧みず、
あの人に会いに行ってくれた。
そして、その願いが叶わなかった事を告げる為
真っ赤に泣き腫らした目で部屋を訪れた。

どんな思いで、あの子達は私の元へ…。

シャラ、そしてワイバード。
アリシオンも又、貴方達に会えて
きっと喜んでくれていると思う。
光一族の未来も、捨てたものじゃないって。

「エリスさん、大丈夫かい?
 あんた…お産初めてなんだってね?」
「大丈夫です。皆居てくれるから」
「そう言ってくれると有り難いね。
 こんな時代だけどさ、良い子を産みなよ。
 何時の時代だって、子供は宝なんだから!」
「えぇ…」

私はきっと、姉よりも幸せなんだろう。
愛する人との絆、この子が居てくれるから。
此処で、誰も知らないこの地で…
一からやり直して生きましょう。

* * * * * *

エリスはスラム街の一つに身を隠し
其処で全てを捨てて生活を始めていた。
町の人々は身重の彼女に優しく接し
彼女も又、そんな人々に素直に甘えた。

宮殿では知りえなかったであろう出会いが
又一つ、彼女を強くしていた。

そして…。

「エリスさん、おめでとう!
 男の子だよ!
 精悍な顔をしてるよ。
 この子はきっと良い男になる」

粗末な小屋、設備等整ってはいなかったが
彼女は人々の助力を得て
アリシオンとの間に芽生えた生命を
この世界に誕生させる事が出来た。

産婆の経験を持つ女から
生まれたばかりの赤ん坊を託される。
そっと抱き上げると、
子供は天を裂かんばかりに泣き出した。

「元気な産声だね~!」
「うんうん、男の子はこうじゃないと」

誰もがこの子の誕生を祝ってくれた。
光と闇の間に生まれし忌み子と
この子を蔑む者は誰も居ない。

「…リオス」

エリスは弱々しく微笑み、
何度も愛しい我が子を撫でてやる。

「エリオス…。
 どうか、逞しく育って…」
「エリスさん?」
「…エリオスを、宜しくお願いします……」
「エリスさん? エリスさんっ?!」

周囲の音が突然小さくなる。
目の前もだんだん暗く、朧気になる。
エリオスの体温だけが
エリオスの鼓動だけが
辛うじて感じられた。

「エ…リオス……」

『貴方は一体、どんな風に育っていくのかしら。
 お父様の様に、強く逞しく…そして優しく。
 そしていつか、愛する人と巡り合えたら…
 その人の為に、精一杯生きていきなさい。

 貴方の幸せを…
 お父様も、私も…心より願っているわ……』

エリオスの泣き声が一層激しくなる。
だが、どんなに泣き叫んでも
その声がエリスに届く事は…もう、叶わなかった。
Home Index ←Back Next→