神職見習い

1.始まり(第壱幕)

「一週間は絶対安静だってさ」

帰り際、十六夜を背負いながら
朔耶は診断結果を報告した。

「骨折はしてないだろうが、
 ヒビは入ってる様子だった。
 打撲も酷いらしいし…
 何より、栄養失調だって」
然様さようか」
「然様かって…お前の健康状態だぜ?」
「栄養なら採っておる」
「じゃあ、何食ってる訳?
 まさか雑草だったり、残飯漁ったりとか?」
「そう云う類ではない」
「霞…じゃねぇだろうな」
「……」
「食ってないのと同意語だ、それじゃ」
「よく霞を食らうと解ったな」

背後から笑い声が漏れる。
面白かったと言うのだろうか。
十六夜にしては珍しい笑い声だった。

「あのなぁ…。
 せめて俺と暮らす時は
 人間の飯食わせてやるから
 確りと味わって食ってくれよ」
「? どう云う事だ?」
「俺ん家で面倒見るから、ヨロシク」
「…誰が?」
「お前だよ、十六夜。
 叔父貴から直々に任命されたんだ。
 俺がお前の保護者になる」
「ワシは頼んではおらぬ」
「俺に目を付けられたんだから諦めな」

今度は朔耶が笑い出した。
十六夜は、と云うと黙ったまま
朔耶を見つめているだけだ。

「せめてお前がそれなりに元気になる迄。
 俺はお前を手放したりしないからな」
「ワシは置物か?」
「まさか! 大切な【家族】だよ」
「…ワシが?」
「あぁ、そうさ」
「…可哀想に」
「あん? 何か言ったか、寿星?」
「いや、その…又
 親父さんへの【生贄】にする気
 満々かなぁ~って」
「生贄?」
「お前なぁ、人聞きの悪い事言うな。
 俺はね、不良少年の更生に燃えてんの」
「それが神職見習いですかぁ~?」
「そうよ。
 神に仕え、自身を見つめ直せば
 真人間への道が開かれるってもんだ。
 俺はその橋渡しをしてるって訳」
「親父さんも言ってますが…
 兄ぃが蓮杖神社の宮司継げば
 済む話じゃないッスか」
「…寿星、ぶん殴られてぇか?」

先程の陽気さは何処へやら。
脅迫する気満々の朔耶の目が
寿星の動きを完全に止めてしまった。

「俺はね、宮司に成る気は毛頭ねぇの。
 人の上に立って偉そうに説教するよりも
 こうやって地道にボランティアしてる方が
 俺の性に合ってる訳。解る?」
「そりゃ解りますよ、俺はね。
 でも親父さんの説教には
 失敗してるじゃないッスか」
「アレは聞く耳持ってねぇもん」
「やれやれ…」

説得する気も感じられない朔耶が言うと
余計に説得力が足りない。
要するに、自分のこれからを
限定されるのが嫌なのだ。
只、それだけの理由で反抗しているのだ。
Home Index ←Back Next→