帰り際、十六夜を背負いながら
朔耶は診断結果を報告した。
「骨折はしてないだろうが、
打撲も酷いらしいし…
何より、栄養失調だって」
「
「然様かって…お前の健康状態だぜ?」
「栄養なら採っておる」
「じゃあ、何食ってる訳?
まさか雑草だったり、残飯漁ったりとか?」
「そう云う類ではない」
「霞…じゃねぇだろうな」
「……」
「食ってないのと同意語だ、それじゃ」
「よく霞を食らうと解ったな」
背後から笑い声が漏れる。
面白かったと言うのだろうか。
十六夜にしては珍しい笑い声だった。
「あのなぁ…。
せめて俺と暮らす時は
人間の飯食わせてやるから
確りと味わって食ってくれよ」
「? どう云う事だ?」
「俺ん家で面倒見るから、ヨロシク」
「…誰が?」
「お前だよ、十六夜。
叔父貴から直々に任命されたんだ。
俺がお前の保護者になる」
「ワシは頼んではおらぬ」
「俺に目を付けられたんだから諦めな」
今度は朔耶が笑い出した。
十六夜は、と云うと黙ったまま
朔耶を見つめているだけだ。
「せめてお前がそれなりに元気になる迄。
俺はお前を手放したりしないからな」
「ワシは置物か?」
「まさか! 大切な【家族】だよ」
「…ワシが?」
「あぁ、そうさ」
「…可哀想に」
「あん? 何か言ったか、寿星?」
「いや、その…又
親父さんへの【生贄】にする気
満々かなぁ~って」
「生贄?」
「お前なぁ、人聞きの悪い事言うな。
俺はね、不良少年の更生に燃えてんの」
「それが神職見習いですかぁ~?」
「そうよ。
神に仕え、自身を見つめ直せば
真人間への道が開かれるってもんだ。
俺はその橋渡しをしてるって訳」
「親父さんも言ってますが…
兄ぃが蓮杖神社の宮司継げば
済む話じゃないッスか」
「…寿星、ぶん殴られてぇか?」
先程の陽気さは何処へやら。
脅迫する気満々の朔耶の目が
寿星の動きを完全に止めてしまった。
「俺はね、宮司に成る気は毛頭ねぇの。
人の上に立って偉そうに説教するよりも
こうやって地道にボランティアしてる方が
俺の性に合ってる訳。解る?」
「そりゃ解りますよ、俺はね。
でも親父さんの説教には
失敗してるじゃないッスか」
「アレは聞く耳持ってねぇもん」
「やれやれ…」
説得する気も感じられない朔耶が言うと
余計に説得力が足りない。
要するに、自分のこれからを
限定されるのが嫌なのだ。
只、それだけの理由で反抗しているのだ。