脅 威

10. 別れ(第壱幕)

妖刀を行使しても、術を行使しても、何故か六条親王には当たらない。
まるで目に見えない壁が彼を包み込んでいるかの様な。

「やはり結界?」
「判らん! だが、通らなきゃ通すしかねぇだろ」
「無駄な事を」

十六夜同様、見た目で判断出来ない六条親王の剣技に
朔耶も繊も驚くしかなかった。
然も相手はまだまだ余裕を持っているらしく、
二人掛かりで攻め込んでも軽くあしらわれてしまうのである。

魔剣の剣圧が二人に襲いかかってくる。
朔耶と繊は顔を見合わせ、防御に専念するべく剣を構えた。
すると。

カシャン

硝子の割れる音と共に、
向こう側の六条親王があからさまに顔を顰めた。
誰かが結界を用いて、六条親王の攻撃を遮ったのである。
この短時間でこれだけの結界を用意出来る人物。それは…。

「十六夜っ!!」

左胸を貫かれ、虫の息である筈の十六夜が放った結界。
彼は精根尽きる迄、朔耶を護ろうとしているのだ。

「逃げ、ろ……。お主達に、彼奴あやつは…倒せ、ぬ……」
「だからって!!」
「九条の加護も最早期待出来ぬな。
 虫けらは虫けららしく消え去るが良い」
「んだとっ!!」

六条親王の挑発にまんまと掛かった朔耶は
十六夜の警告にも耳を貸さない、正に興奮した状態だった。
繊と共に何度も挑むが、六条親王の体に妖刀が触れる事は無い。
やはり攻撃が通らないままなのだ。
それが却って朔耶を躍起にさせた。

「このままでは体力も霊力も消耗してしまいます…」

神楽の心配気な声に、十六夜を抱えたままの寿星は
下唇を強く噛んで悔しさを滲ませるだけしか出来なかった。
こうしている間にも十六夜の生命の灯は弱まっている。
【陰陽鏡】を取り返さなければ、彼は死ぬ。
だが、このままでは全滅の可能性も出て来てしまった。

* * * * * *

朔耶と繊、そして六条親王の間に突如一閃の雷が舞い降りた。
砂煙を巻き上げ、雷を帯びた刃が
そのまま六条親王の目前に振り下ろされる。

「何?」
「雷…? まさか…」
「鳴神、なのか…?」
「もう少し冷静に敵を見極めろよ。
 結界に何回突撃噛ませば気が済むんだ?」

朔耶と繊を守る様に、六条親王の前に立ちはだかった人物。
それは今迄音沙汰の無かった鳴神本人であった。

「此処は俺が預かる。貴様等はさっさとズラかれ」
「鳴神…」
「足手纏いなんだよ」
「!!」

朔耶の脳裏に突如甦る記憶。あれはヤスが【影喰】に襲われた時。
あの時、やはり同じ様に【足手纏いだ】と十六夜に言われた。
力を付けたとはいえ、まだ朔耶は
あの頃の自分から脱却出来ていない事を痛感する。

namaHナウマク samantaサマンダ - vajrANAMバザラダン hAMカン!!

鳴神を包み込む雷が静かに炎へと変化していく。
それに伴い、六条親王の視点も朔耶から鳴神へと移り変わって行った。
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