援 軍

10. 別れ(第壱幕)

「成程。少しは使える様じゃな」

六条親王は魔剣の切っ先を鳴神に向けて微笑んだ。

「己が力、見せてもらうとしようか」
「高く付くぜ」

不動明王呪を唱え、愛刀【村正】に炎を纏わせると
鳴神は恐れる事無く六条親王の眼前へ踏み込んだ。
其処から思い切り下段攻撃を食らわせる。

六条親王が被っていた冠が地面に落ち
彼の前髪が一房、風に流された。
初めて六条親王本人に攻撃が通ったのである。

「?!」
「だから言ったろ? 『高く付く』ってな」
「貴様……っ」
「俺を他の奴と同じに見られちゃ困るな。
 俺には、彼奴アイツ等には無い物が有る」

意味深な言葉を呟き、鳴神は流れる様に攻撃を繰り返した。
【村正】での攻撃は確かに効果が有る様である。
魔剣との競り合いでも五分の状態で、決して負けてはいない。

「貴様、余が恐ろしくは無いのか?」
「恐ろしい? 何故?」

鳴神は相変わらず笑ったままだ。
六条親王の余裕を少しずつ削っていく。
それは嘗て、自分が十六夜によって教えられた戦術だった。

「あれ? もしかして俺が『殺されるのが怖い』とか
 甘っちょろい事を考えてるガキだとでも思った?」
「…っ!」
「俺はな、呪殺を仕事として請け負ってるんだよ。
 人様の生命を奪って銭を稼ぐ仕事さ。
 人を殺しゃ、同じ様に手前が殺される事位想定してらぁ!」

鳴神はそう叫ぶと、再度 朔耶達を睨み付けた。
この場から去れ、と言いたいのだ。

「鳴神……」
「朔耶、鳴神の奴…」
「彼奴、死ぬ気かも知れん…」
「なら加勢しないと!」

朔耶はまだ動けずにいた。色んな思いが心を責め立てる。
如何すれば良いのか、それが見えない。

「鳴神っ!!」

一瞬の隙を突いたのだろう。
六条親王は黒い雷を召喚し、それを鳴神目掛けて放ったのだ。

「鳴神ぃーーーーーっ!!」

爆音で朔耶の叫び声も消されてしまう。
爆風から十六夜だけは守ろうと、
神楽は渾身の力を込めて結界を張っていたが
彼女自身の体は勢いに負けて後方に吹き飛ばされた。

「神楽っ?!」
「神楽ちゃんっ!!」
「だ、大丈夫です…」

何とか受け身を取る神楽と、安堵する繊と寿星。
神楽の結界に守られていた寿星は
目を凝らして爆風の先を見つめ、叫んだ。

「兄ぃ! 鳴神の兄貴は無事だ!!」
「何だって?」
「よくは判らないけど、直撃を避けてる!」
「鳴神の奴…、驚かせやがって」
「…乾月」
「え? 今何て言った、十六夜?」
「乾月、が…来た……」
「師匠が?」

鳴神を守っていた結界。それを生み出した主、乾月の存在を
この時 十六夜だけは感じ取っていた。
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