親 友

10. 別れ(第壱幕)

十六夜が目を覚ましたのは術後1時間が経ってからだった。
ボンヤリとした視界の中、必死に朔耶の姿を捜そうとしている。

「気が付いたか、十六夜?」
「けん…げつ、朔耶…は…?」
「……」
「こたえて、くれ…。さくや、は…?」
「六条親王と交戦中だ。【陰陽鏡】を取り戻す為にな」
「っ!!」

傷口を抑え、十六夜はベッドから抜け出そうとする。
乾月は慌てて制止し、再び横にならせようとするが十六夜は聞かない。

「無茶だ。傷が開く!」
「さく、やの…もと、へ……」
「十六夜!」
「もう…もたない、こと…は、わかって、いる……」
「十六夜……」
「乾月…、頼、む……。朔耶の、元…へ……」
「……」
「たのむ…けんげ、つ……」

十六夜は、只 ひたすらに懇願している。
朔耶と共に戦う。それがどれだけ無茶な事かは解っている筈なのに。

「たのむ…。けんげつ、親友ともとして、たの…む……」
「……初めて、だね。こんな風に私を頼ってくれたのは」

乾月は泣いている様だった。声が所々震えている。

「それがお前の望みであるなら、叶えよう。
 他ならぬ親友の頼みだ…」
「ありが、とう…けんげつ……」

既にたどたどしい会話しか出来ない状況の十六夜だったが
それでも彼は微笑んでいた。

「…すまな、かった……」

小さく、十六夜が呟く。その謝罪は今を指しているのか。それとも。

「…らしくないよ、十六夜」

乾月もそう返すのが精一杯だった。
だから言葉ではなく、彼の体を抱き起して
立ち上がらせる事で返答したつもりだった。

* * * * * *

火産山に舞い降りた鳩の式神の存在は、鳴神も確認していた。
そして彼はその元を、式神を送り出した相手の存在も見付け出していた。

「認めたくないが、ルーツは流石に彼奴アイツの方が何枚も上らしい」

鳴神のボヤキにその人物は小さく笑い声を零した。
人影こそは自分よりも遥かに小さいが、
纏う気はかなり強い物を感じ取る。

「それだけの力を持ってしても、野郎の相手は無理って事か」
「喧嘩するにもそれなりの条件ってのが必要なのさ」
「だから場外乱闘で手を貸した訳かい」
「まぁね…」

人影に月の光が差し込む。其処に立っていたのは弓であった。

「アタシの力は攻撃には向かない。尚且つ中途半端に強いと来てる。
 アタシが六条とやらと克ち合ったら、力を食われて終了だろうね」
「敵に餌をやる様なもんか…」
「そう云う事。だからこの手でしか支援出来なかったんだ」

弓には見えていたのだろう。この未来が。
平家の血を色濃く受け継いだ者だからこそ判る【未来】。

「寿星君達はちゃんと受取ってくれた様だね。
 この街の命運を握る物の正体を」
「アンタ、何処でそれを?」
「ウチの実家で眠ってた物さ。
 何故かアタシしかそいつが収められてた箱を開けられなくてね。
 今思えば、アタシが認められた証拠だったんだろうけど」
「時を読む力、って奴か。成程な」
「で、君はこれからどうするつもり?」
「取り敢えず雲隠れの続きかな? 六条には面がバレてるから」
「そうかい。それじゃ気を付けて」
「…一つ、良いかい?」
「何だい? アタシが答えられる範囲じゃないと困るよ」
「十六夜は…どうなる?」
「それを決めるのは…アンタ達次第だ。今はそうとしか答えられない」
「そうか……」

弓の言葉に鳴神は落胆の色を浮かべた。
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