流れた時間

11. 再起(第弐幕)

いつの間にか樹木が紅葉する季節に移り変わっていた。

スッカリ肌寒くなった空気を感じながら
乾月は静かに立ち上がると、和風庭園に目を向けた。
手入れの行き届いた庭ではあるが、何処か物悲しい。
彼の自宅兼稽古場には寿星、繊、神楽の姿が在った。

「あの日から半年以上経ったんスね…」

しみじみと寿星が言葉を発する。

「寿星。朔耶は?」
「最近は一人で出掛けてばかりですよ。
 行先は誰にも言わないで、いきなりフラフラと…」
「引き籠りからは脱したか」
「一応は」
「朔耶さん……。
 少しは心の傷が癒えていると良いのですが…」
「それは、まだまだだろうね」

乾月は苦笑を浮かべている。

「まだ?」
「大切な存在を目の前で喪った訳だからね。
 然も自分の能力不足で。
 朔耶はああ見えて、意外と打たれ弱い一面が有るからさ。
 案外 他の人よりも立ち直るのに時間が掛かると思うよ」
「流石は師匠……」
「伊達にお前達の師匠はやってないよ、寿星」

乾月は笑っている、様だったが
それでも先程とは違い 視線は鋭くなっていた。

「こればかりは彼自身が
 自分の力で乗り越えないといけない問題だ。
 誰かが代わってやる訳にもいかない。
 それに、何時までも悲しまれたまんまじゃ
 当の十六夜が迷惑に思うだろうさ」
「十六夜が……」
「彼が下した決断を、誰が否定出来る?
 我々は十六夜の決断に救われた訳だ。
 彼の犠牲に因って、今の世は成り立っている。
 それを理解した上で、前を見て生きていかなければ
 彼は…喜びはしないだろう」
「そう、ですよね……」

神楽はそう言って、ふと繊を見つめた。
先程から一言も発する事無く、
黙って庭の枯山水を見ているだけだ。
きっと朔耶の心の痛みに共感しているのだろう。
神楽はそう感じ取っていた。

「こっちはこっちで話を纏めておかないと。
 六条はまだ【陰陽鏡】を諦めてはいないだろう。
 確か『砕いた後(のち)に復活する』とあったんだね」
「はい。巻物には確かにそう書かれてました」
「ならば、必ず奴は現れる。
 今度は十六夜の力に頼る事が出来ない。
 我々だけで、何とかしないとね」
「今度は、俺達だけで……」
「勝てるんでしょうか? 私達……」
「やるしかないでしょ。他には誰も宛に出来ない」
「……」

乾月のこの一言に、その場に居た3人は
皆一様に表情を硬くした。

六条親王の強さは充分判っている。
だが、勝たなければいけない。
十六夜が居ない今、それは非常に苛酷に感じた。
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