虚無感

11. 再起(第弐幕)

何をやろうにも身が入らない。
魂が体からゴッソリと抜け落ちた様だ。

あの日、カメラに収めた風景は
仲間のカメラマンに現像を頼んだまま
まだ受け取りにすら行っていない。
思い出す事を、今だに恐れているのか。
もう何度も夢で見て、悲しみにも慣れた筈なのに。

「……」

彼が残した物は3体の使い魔。
そして、彼が肌身離さず身に付けていたこの水晶の数珠。
今は自分が、肌身離さず身に付けている。
こうして居れば、彼と共に生きられる様な気がしていた。

「散歩、行こうか」

ボンヤリとした視界は、あの日からずっと続いている。
此方を見つめる3体の仲間と共に俺は部屋を出た。

* * * * * *

「本体はお隠れ中ってのにしつこいねぇ!!」

【村正】を片手に悪態を吐きながら
鳴神は自身に向けて放たれた【魔】を成敗していく。

「足並み揃ってないのはお互い様だが…
 こうも好き勝手に街を荒らされちゃなぁ~。
 流石の俺も黙っちゃいないぜ」
「【陰陽鏡】を差し出せ…」
「はぁ~? 【陰陽鏡】?
 当たる相手、間違えてんじゃねぇの?」
「【陰陽鏡】を差し出せ…」
「お前は壊れたレコードプレイヤーかっての!
 手元に無ぇブツなんざ、差し出せるか! 阿呆!!」

白装束を纏った美丈夫は笑みを浮かべたまま
怪しげな日本刀を振り回し、【魔】を放つ。
機械的な動きの中に見え隠れする【悪意】に
鳴神は嫌悪感を示し、切っ先を相手に向けた。

「何度殺っても甦るのな、貴様は。
 あぁ、そうか。元々『死んでる』からか。
 本当、何度も戦わせやがって。面倒臭ぇ」
「【陰陽鏡】を差し出せ…」
「消えろや、ガラクタ。
 namaH samanta vajraaNaaM haaM
 (ノウマク サンマンダ バザラダン カン)」

鳴神は精神統一し、不動明王の炎を【村正】に召喚した。
【魔】を一撃で祓う為だ。

炎の剣の一閃は確実に【魔】の大軍を滅ぼした。

「…口惜しや」

手先の【魔】を全て祓われた美丈夫は、
唇を噛み締めて恨み節を唱えるとそのまま姿を消した。

「やれやれ…。
 やはりまだ稲生神社には何か隠されてるって事か?
 この間は上坂神社で襲撃に遭ったばかりだし。
 師匠に報告すっかね、あぁ面倒臭ぇ」

敵の気配を探るが、どうやら隠れている者は居ない様だ。
鳴神は懐から愛用のスマートフォンを取り出すと
リダイヤルを利用し、乾月に連絡を入れた。

「あぁ、師匠? 俺だ、鳴神。
 師匠の読み通り、出やがったぜ。
 何処って? 今回は稲生神社だ。
 やはり、【四神結界】の要を向こうさんも探ってる様だな。
 ん? …はいはい」

乾月から何かを言付かったらしく、鳴神は顔を顰めた。
Home Index ←Back Next→