追 憶

11. 再起(第弐幕)

半年以上、周囲を見渡す余裕すらなかった。
改めて見る街の景色。彼の愛した街。
ゆっくりと紅く色付いていく。

「もう…秋なんだな」

彼、十六夜と初めて出逢ったのは…秋だった。
一年前の秋の或る日、彼と出逢った。
十六夜の月が輝く夜だった。

そして、二人の歯車が動き出した。
運命と云う名の歯車が。

「あまりにも駆け足過ぎて
 振り返る余裕すら無かった様な気がする。
 尤も、まだ現在進行形で
 問題解決迄には程遠いけれどな」

十六夜と過ごしてきた日々。数々の試練。
そして…避けられぬ戦い。
今も尚、思い出されるのは…十六夜の最期。

「…なぁ」

朔耶はそっと声を掛けた。
姿を隠しつつも、愛する主である朔耶につき従う
十六夜の遺した3体の使い魔達に。

「この中で一番最初に生まれたのは…ムサシか?」
『如何にも』
「何時頃? 覚えてるか?」
『先の主、十六夜が火産山に籠られてから。
 【陰陽鏡】をその身に宿してから』
「じゃあ、六条とは面識有ったのか?」
『いえ、残念ながら御座いませぬ』
「そうだったのか…。
 もう少し後の時代って事になるんだな」
『因みに私とハヤトでは少なくとも
 二百年の歳月離れております』
「二百歳は離れてるって事か」
『俺は生まれてから五十歳近く経ってる』
「まぁ、ザッと計算しても
 ハヤトが50歳だとしたらムサシは250歳以上か。
 そもそも十六夜が千歳を超えてるって事だったから
 納得だよな…って、んっ?!」

ここで朔耶は或る疑問に辿り着いた。
乾月と鳴神も着眼した例の疑問である。

「六条は…どうして千年以上も生きていられるんだ?」
『私もそれが解せぬのです、主よ』
「そうだよな、ムサシ。
 十六夜には【陰陽鏡】の力が有った。
 【陰陽鏡】が彼奴を死なせまいとしていたから
 十六夜は千年を超えて生き続ける事が出来た。
 だが…六条は違う。
 少なくとも【陰陽鏡】は六条を【拒絶】していた…」

【陰陽鏡】の業無くして不老不死を手に入れる術。
六条親王はその術を手に入れていると云うのだろうか。

「このカラクリを解かない限り、六条は倒せない。
 何としてでも見付け出さないとな」
『八乙女の巫女様であれば
 何か叡智をお持ちかも知れませぬ。
 長きに渡り暦を結びし一族故に』
「成程な。って言っても誰だっけ?
 その【八乙女の巫女】って」
『八乙女 神楽殿に御座います』
「神楽がそうだったのか…」
『主?』
「出来ればこれ以上仲間を巻き込みたくねぇな…」
『主…』
「解ってる。俺一人じゃ何も出来ないって事位。
 意地張ってたって六条には勝てねぇ。
 地べたに額擦り付けてでも助けを請わないとな」

朔耶にとっては苦渋の選択だった。
しかしこれ以上仲間を喪わない為にも
強がりや我慢はキッパリと捨てねばならぬのも又事実。
全ては打倒 六条親王の為に。

* * * * * *

蓮杖神社の境内にひっそりと存在する
通称【理(ことわり)の森】。
その一角にヤスこと宮元 康男の首塚が在る。
薄暗い森の中でヤスの首塚は
何かを訴えるが如く、淡く発光していた。
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