首塚にて

11. 再起(第弐幕)

どうして自分が襲われなければならないのかが解らない。
だが、死にたくない一心で懸命に逃げてきた。
この森に入った頃から、あの鎧武者の殺気を感じなくなったが
それは鎧武者がこの森に畏怖の念を抱いているからなのだろうか。
今は…それすらも解らない。
ただ、傷付き疲れ果てて…もう逃げる気力すら湧かない。
そのまま地面に頽れていくしかなかった。

* * * * * *

朔耶達が帰宅したのは完全に陽が落ちてからの事だった。

『主、アレ何ダ?』

リョウマの呼び掛けに朔耶は理の森へ視線を向けた。

「あの場所…確かヤスさんの首塚が在る場所だ。
 何か遭ったのか?」
『主、行クカ?』
「あぁ。ヤスさんが俺に何かを伝えたがってる。
 お前達もついて来い!」

駆け出す朔耶の後を、3体の使い魔達はそのまま追って行く。
薄暗い森の中にも関わらず、迷う事無く朔耶は突き進んだ。
幼い頃から慣れ親しんだ森であるだけでなく
首塚から発されるであろう光は確実に彼等の道標となっていた。

「ヤスさん!」

首塚に辿り着き、懐かしいその名で呼び掛ける。
そして朔耶は彼の意図を知った。
首塚の直ぐ傍で倒れている一人の男。
刃物の様な物で斬り付けられたのか、酷い裂傷だった。
微かに肩が上下する事から、まだ息はあると判る。

「おい、大丈夫か? 直ぐ手当を…」

朔耶はそう言って男を抱き起し、思わず息を飲んだ。

「…嘘だろ? まさか……」

そのまさか、である。
男は余りにも似過ぎていたのだ。
半年前に死んだ筈の十六夜その人に。
あの死別を乗り越え、
やっと前を向いて生きて行こうと決意した最中。
これ程酷似した人間と出逢う事が有るのだろうか。

『主!』

ムサシの呼び掛けに朔耶は漸く我を取り戻した。
そうだ。今は考えている場合ではない。
先ずはこの男の手当てをしなければ。

「ハヤト、お前は急いで師匠を呼んで来てくれ!」
『師匠をか?』
「あぁ。叔父貴の家は師匠の家に近い。
 二人一度に来てもらった方が話が早い。
 叔父貴には俺から事情を話しておくから!」
『承知した!!』

まるで風の様にハヤトは暗い森を抜けていく。
その姿を見送りながら、朔耶は自身の携帯電話を取り出した。

「叔父貴か? 急患だ! 金は幾らでも出すから助けてくれ!!」

自分の腕に押しかかる重みと、微かな体温。
もう二度と手放す訳にはいかない。
そんな朔耶をムサシとリョウマは真剣に見つめていた。
彼等も又、主である朔耶と同じ思いだった。
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