瓜二つ

12. 記憶(第弐幕)

朝露は処置を終えると、必要な薬を朔耶に託し
そのまま家を後にした。
特に何を聞かれた訳でもない。

死んだ男と瓜二つ。

その事に対し、医師である彼が何を感じ取ったのか。
無言で立ち去る叔父の背中を見送りながら
朔耶は思いを馳せていた。

「朔耶、私もそろそろお暇するよ」
「師匠…」
「彼が目を覚ます迄、
 まだ少し時間が掛かりそうだからね。
 目覚めて、落ち着いてからでも
 御目通りは遅くないだろう?」
「…そうですね」
「頃合いを見計らって連絡くれれば
 その時に又、参上するとしよう」
「ありがとう御座います、師匠」
「……」
「師匠?」
「『他人のそら似』かも知れないな」
「師匠…」
「独り言だよ。あまり気にしなくていい」
「…はい」

それなりに苦楽を共にしてきた
乾月だからこその独り言。
朔耶にはそのように受け取れた。
『十六夜は死んだ』という現実が
重くのし掛かってくる瞬間でもあった。

* * * * * *

余程疲れ切っていたのだろう。

男は2日経っても眠り続けていた。
点滴が効いているのか、
少しずつ顔色が良くなって来ていた。
穏やかな寝顔は、やはり誰かを髣髴とさせる。

「瓜二つ…。確かにそうかも知れない。
 でも何処かで期待してしまってるんだろうな」

朔耶はそう呟くと「なぁ」と相槌を求めた。
勿論、3体の使い魔達にである。

「人ってのは弱い生き物でさ。
 ここ一番って時に悩んだり
 迷ったりしちまうもんなんだよな。
 解ってる筈なのに同じ事を繰り返す。
 …でもな」

朔耶はフッと笑みを零した。

「それが又、人間の【可能性】に
 繋がっていくような気がするんだ」

それ程【人間】を信じている訳では無かった。
少なくとも昔は何処かで
人間である事に嫌悪感すらあった。

『信じてみても良いか』と思う様になった切っ掛け。
それを思い出し、朔耶は無言で数回頷いてみせた。

『主?』
「何でもないよ、リョウマ。一寸昔を思い出したんだ」
『昔ノ事?』
『何百年前の事だ、主?』
「ハヤト…。人間は何百年も生きられねぇって」

苦笑いを浮かべながら、
朔耶はリョウマとハヤトの頭を優しく撫でてやる。

「此奴が目を覚ましたら俺に教えてくれよな。
 きっと腹も減ってるだろうし。
 傷の治り具合をちゃんと見て叔父貴に報告しないと」
『勿論ダ!』
『目覚める時が楽しみだな、主』
「そうだな。楽しみだ」

この男が目覚めるのは今日か、それとも明日か。
近付いて来るその時を、朔耶は心待ちにしていた。
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