違和感

12. 記憶(第弐幕)

男が朔耶に助けられてから、3日目の昼を迎えた。

覚醒に気付いたのはリョウマだった。
男の顔を盛んに舌で舐めて覚醒を促そうとしている。
しかし、男は
リョウマの舌が当たっているという自覚が無い様だった。

『変だ』

傍に来たハヤトがその異常にいち早く気付いた。

『変カ?』
『あぁ、変だ』
『ドウ変カ?』
『巧く説明出来ないが、変だ』

違和感を解り易く説明出来ず
ハヤトは苛立ちを隠せなかった。

「どうした?」
『あぁ、主』

部屋に戻って来た朔耶を見るや、
2体は助けを乞う様に足元に擦り寄って来る。

『リョウマが頬を舐めたが、何かがおかしい。変だ』
「変? 何がどう変なんだ?」
『巧く説明出来ないが、変だ』
「…リョウマ、もう一度舐めてみてくれないか?」
『解ッタ!』

先程と同様にリョウマが舐める。
その動作を暫く見つめていた朔耶だったが、
漸くハヤトの言う【違和感】に気が付いたらしい。

「成程。『舌が擦り抜けてる』のか…。
 それがハヤトの言う【変】だったんだな…」
『ドウイウ事?』

「霊感を持っている奴…
 まぁ、お前達の存在を『感じられる』位の
 能力の持ち主なら、
 何となくでも触れてる感覚ってのが伝わってくるんだ。
 しかし人間の中には、その能力が低過ぎる奴
 発動出来ない奴…つまり、『霊感の無い』奴も居る訳」

『ソウナノ?』
「あぁ。此奴に関しては『眠っている』って事も
 考慮しないといけないから
 断言は出来ねぇけどさ」
『ムゥ…』
『この男は十六夜ではないのか?』

朔耶が敢えて避けた言葉。
ハヤトが言った『十六夜ではないのか?』と云う疑問。
答えられる訳が無い。

「目覚めれば…全て判明する筈だ」

朔耶はそう返すに留めた。

* * * * * *

六条親王の手の者と思われる刺客と相対する内に
鳴神は彼等の行動パターンを幾つか掴む事が出来た。

「【妖刀遣い】全員がターゲット、と云う訳でもない。
 少なくとも朔耶やあの女は狙われていない様子だし。
 そして祠の在った場所に近付かなければ
 襲撃される事も無い。
 そう云う意味じゃ師匠が良い例だな」

鳴神は手にしたメモに目を通しながら
咥えた煙草を口で弄ぶ。

「狙われるポイントはやはり『祠への接近』だな。
 そして霊力の強さで存在を確認しているのであれば…、か。
 【妖刀遣い】であればさもありなん、と」

更にメモへ何かを書き込んでいく。

「目で見て相手を判断して無さそうだし。
 見えていたら、祠に近付く観光客迄襲われちまうわな。
 声に反応する訳でも無い…となると
 聴力も怪しいところだし。
 やはり奴等の正体は【魔】って事になるのか?」

メモを胸ポケットに戻す。そのまま目線は青空へ。

「見付けてやるよ。
 祠に隠された【謎】とやらをな」

不敵な笑みを浮かべる鳴神であった。
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