真 意

12. 記憶(第弐幕)

「何考えてんだよ、朔耶っ?!」

境内中に繊の怒鳴り声が響き渡ったのはそれから2日後。
怒り心頭な彼女を何とか宥めようとする寿星と神楽。
それに対し、朔耶は繊の怒りは尤もと云う表情を浮かべている。
それが更に彼女の怒りに油を注ぐ結果となった。

「どう云う意図でこんな…っ」
「ちゃんと考えてるさ」
「考えているようには思えない!」
「繊! そりゃ一寸言い過ぎじゃ…」
「構わねぇよ、寿星。繊の云う事は当然だ」
「兄ぃ……」
「それでも、俺にはこれがベストだと思えた」

朔耶の言葉に迷いは無かった。
仲間からの非難を承知の上で、この名前を彼に授けた。
あの十六夜と瓜二つの男に。
それがどんな意味を成すのか、解らない訳では無い。
だからこそ繊は激高したのだ。

「俺は俺なりの方法で彼奴の、十六夜の想いに答えようと決めた。
 今になってはそれしか、俺には出来る事が無い」
「朔耶さん…」
「あの男は、自分が誰であるかも判らずに居る。
 何者かに襲われ、瀕死の状態で此処に逃げ込んで
 その訳さえも、彼奴は知らないままだ」
「……」
「俺は彼奴を護ると決めた」
「あの男が…六条の手の者だとしても?」
「繊! 幾ら何でも…っ!」
「ならば、俺が六条の支配の楔を断ち切ってやるよ」
「?」
「そうすりゃ彼奴は自由に成れるんだろ?」
「…朔耶さんらしい【回答】ですわね」

殺気立っている繊とは正反対に、神楽は穏やかだった。
彼女は朔耶の心情を理解出来ているのだろう。

「繊。殿方が一度決意成されたものを
 そう簡単に撤回される事は有りませんわ」
「だからって…」
「勿論、貴女が心配している事は解っております」
「あ、アタシは別に……」

途端に焦り出す繊に苦笑を浮かべながら
神楽は朔耶に言葉を送る。

「寿星さんから
 新しい十六夜さんの事は多少伺っております。
 賊に襲われて大怪我をされたとかで」
「あぁ。酷い刀傷だった」
「刀傷、だったのですね」
「神楽?」
「【虎徹】は依然、行方が知れないのですわ。
 そして六条親王も【魔剣】の使い手…」
「六条に狙われたかも知れないって事か」
「今の十六夜さんからは、まるで霊力を感じ取れません。
 ですから別人であるとも考えられますが…
 それにしては余りにもお姿が酷似しております。
 六条親王が本人と見間違えた可能性は否定出来ませんわ」
「神楽ちゃん…それって…」

寿星に言われる迄も無く、
朔耶は神楽の言葉の真意に気が付いていた。
彼女はこの十六夜を護れと
伝えたがっていたのだと云う事を。

「六条とはこのままで終わるとは思ってねぇ。
 必ず決着をつける時が来る。
 その時まで…俺はもっと実力を高めねぇとな」

久々に目にした力強い朔耶の笑みに
神楽は安堵の息を漏らした。
Home Index ←Back Next→