継承の真実

12. 記憶(第弐幕)

経験が無い以上、解れていないのは当然の事。
身も心も解れていなければ何処かで怪我を負わせてしまう。
それだけは遭ってはならぬ事。
漸く繋がりを持ち始めた頃には数時間が経過していた。
時折十六夜は顔を顰める。
恐らくは痛みを堪えているのだろう。

「我慢するな。痛い時は『痛い』って言うんだ」
「…はい」

男同士で交わるのは本来の道筋からは外れる行為。
だからこそ容易いものでは無く、同時に理解もされ難い。
遊び半分で異性と交わる輩を見ていると
パートナーに対する敬愛の念は
どちらが深いのだろうかと考えてしまう事も有る。

「かなり締め付けて来るからなぁ…。深呼吸出来るか?
 その動きに俺が合わせるから。
 じゃあ大きく息を吸って……、吐いて…」

十六夜の深呼吸の頃合いを見ながら、
朔耶はゆっくりと自身を押し進める。
少しでも呼吸が途切れたら其処で一旦停止。
また深呼吸が再開されたら動き出す。それの繰り返し。
自身の経験上、最も時間の掛かる初物である事は間違いない。

* * * * * *

あれは、何時の事だっただろうか。
どうしても気になる事が有ると、【村雨】に声を掛けた。

「なぁ、【村雨】」
『ん? 何だ、朔耶?』
「お前さぁ、十六夜と【意識共有】した事有ったよな」
『あぁ。お前が俺と契約する際の戦いでな』
「なら…どんな奴か判ったか?」
『ん? そりゃ【平 朔耶】の事を言ってるのか?」
「…あぁ」
『まぁ外見はお前その物ってよりも、もう少し精悍だな。
 そりゃ武家の出だし、
 十六夜共々生命を狙われてたんだから
 凛々しい顔付きになるのも解るってもんだが』
「性格は?」
『流石に其処迄は判らんよ。
 十六夜がかなり入れ込んでた位で』
「入れ込んでた…ねぇ…」
『それも仕方が無いんじゃねぇかな。
 想いを添い遂げた直後にさ、
 目の前で真っ二つに斬り殺されりゃ』
「…それ、六条にか?」
『あぁ。その死体を目の前にして
 嬲られたってのもセットでな』

【村雨】は自分が見た映像を
そのまま朔耶へと送り込んできた。
そこに隠し立ては一切無い。
だからこそ、吐き気を催す様な惨事が
実感として朔耶に伝わった。

『これが十六夜の隠し続けてきた【真相】だ。
 流石に話せる訳が無い。
 だから、誰にも告げずに一人で戦い続けた』
「こんな事が……」
『こんな事が現実に行われたんだよ。
 仮にも【兄】に因ってな。
 だけど彼奴は死ねなかった。
 死ぬつもりで己ごと六条を貫いたが』
「何故? まさか…」
『そうさ。その時に彼奴は【陰陽鏡】を継承した。
 最悪のタイミングでな』

淡々と語る【村雨】に特別な思い入れは感じられない。
彼は【妖刀】であり、人では無いのだから
それも止むを得ないだろう。
朔耶は何か言葉を口にしようとしたが、
巧く発声する事が出来なかった。

『流石の朔耶も驚きで声が出ないか。
 無理もねぇ。それが【人間】だ』

【村雨】の一言が何故か無性に【救い】に感じた。
Home Index ←Back Next→