祖父に呼ばれて、この箱の前に座らされた。
何の事か解らないけど、好奇心が上回ったのか
アタシは祖父の指示を待たずに箱に触れた」
「それで箱が解錠したのか…」
「その場に居た大人が皆驚いたからね。
流石にアタシも焦ったよ。
だけどさ、その時に
詳しく事情を説明してくれる人が居たんだ」
「それが、十六夜だったのか…」
「あぁ。彼には『見えていた』そうだから」
会ったのはそれっきりだったが、
彼の言葉の重みは充分に感じられたからこそ
弓はずっと彼との約束を守り続けてきた。
『私と会った事は忘れて欲しい』
今思えば、十六夜が初恋の人だったのかも知れない。
もう二度と会う事は有るまいと、
この記憶を心の奥底に封じていた。
「人生ってのは奇妙の連続だね…」
「弓ちゃん……」
「六条と戦うにせよ、情報は武器にも防具にもなる。
先ずは乾月ちゃん達に、これを読破して欲しい」
「朔耶は後回しで良いのかい?」
「朔なら何とかするだろうさ。
アタシの見た未来が【真実】だとするなら…
朔は自分自身で答えを見付け出す」
「流石は朔耶の母親…って所か」
乾月はそう言って微笑んだ。
弓も又、笑顔で返した。
弓の帰国は乾月から白露経由で知らされた。
事情を呑み込めない十六夜に説明する時間も無く
朔耶はバタバタと家を片付け始めた。
「掃除も真面にしてなかったのがバレバレだからな」
「厳しい人なんですか? お母さん」
「結構こう云う面では厳しい。親父よりもな」
「そうなんだ…」
「あ、それ運べる? 向こうの部屋に」
「運んでおきます。押し入れには?」
「其処迄は良いよ。取り敢えず集めるのが先」
「解りました」
せっせと布団を運んでいく十六夜の後姿を
朔耶は微笑ましく見守っている。
すると。
ピンポーン
「ヤバい、帰って来た!」
自分の持ち場はそのままに
朔耶は慌てて玄関へと向かった。
「成程…やはりそう云う事だったか」
巻物の内容を確認しながら鳴神が唸る。
どうやら幾つか立てていた仮説が
正解だったらしい。
「ならば…俺達自身が倒れる訳にはいかない。
少なくとも妖刀の契約者は…」
「妖刀と契約する事で我々は
【四神結界】の要そのものになっていた訳か。
十六夜が妖刀遣いになる事に
嫌悪感を示していたのも…そう云う事だ。
妖刀を持つ事で結界の維持に絡む事になる。
そうなれば自ずと六条の標的にされる」
「とんでもねぇ課題を遺して行ってくれたぜ。
しかしこれ程遣り甲斐のある課題も無い。
なぁ、師匠?」
鳴神の皮肉に対し、乾月は実に嬉しそうに頷いた。