黄金色の武者

13. 逃亡(第弐幕)

「【村雨】っ!!」

朔耶の声に呼応し、青白い炎の柱が出現する。
大雨に吹き消される事も無い力強い炎。
ゆっくりと朔耶の右腕を包み、
やがてその手に握られる日本刀。
抜刀する事無く、朔耶はそのまま魔剣を迎え撃った。

「お前等の相手はこの俺だ」

鞘で一人の攻撃を防ぎながら、
抜いた刀でもう一人の動きを止める。
十六夜を護るという信念が、
彼の元々の実力を更に引き出していた。

「絶対に…護ると誓ったっ」

朔耶は流れる様な動きで敵の攻撃を弾き飛ばしていく。
しかし決して深追いはしない。
一定の距離を維持したまま、彼は戦い続けていた。
足場の悪い中、それでも戦えたのは
使い魔達の援護も有ったからだ。
何度踏まれても蹴られても足元に纏わりつき、動きを妨害する。
主の朔耶の為、そして十六夜の為に
リョウマもハヤトも戦っていた。

* * * * * *

状況が一変したのは一筋の雷が落ちた直後だった。
炎を背にゆっくりと姿を現したのは
正に黄金の鎧の身を包んだ武者だった。
その表情を窺い知る事は出来ないが、放つ殺気は尋常では無い。

その姿を見て、十六夜は何かを思い出したかの様に青褪める。
戦闘中の朔耶は彼の変化を確認する事も叶わない。

武者はそのまま自身の持つ刀を抜き、構える。
其処から白装束の男達に襲い掛かる。その動きは正に【風】。
一撃で一人を弾き飛ばす程の力。

『此奴、滅茶苦茶強くないか? 下半身の使い方が全然違う。
 それなりに重装備だってのに、鎧の重さをまるで感じない。
 一体何者なんだ、此奴は…?』

新たに現れたこの武者の存在に朔耶は困惑を隠せない。
それもその筈。
武者の手にするのは見覚えの有る刀だったからだ。

『あれは…【虎徹】? どうして此奴が【虎徹】を…?』

自分よりも自由自在に【虎徹】を扱う武者の姿。
武者は自分では無く、白装束の男達だけを攻撃していた。
少なくとも武者は
朔耶を敵と認識していないと云う事なのだろうか。

「…十六夜?」

戦闘に気を取られ、十六夜の姿を見失っていた。
武者に敵を任せ、周囲を捜すが十六夜の姿は何処にも無い。

「十六夜っ?!」

朔耶は声を荒げて十六夜を捜していた。
リョウマとハヤトも戦闘から離れ、十六夜の捜索に向かっている。
恐怖のあまりに逃げ出したのかも知れない。
しかしこの視界と足場の悪い中、無事に下山出来るだろうか。
更に混乱した状態に陥っているとしたら。

「十六夜ぃーーーっ!!」

朔耶の叫びは豪雨の火産山に空しく響き渡った。
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