逃亡の果て

13. 逃亡(第弐幕)

小川の縁で気を失っている十六夜の側に集う山の動物達。
下半身が川の使ったままであるのを見付けると
熊は器用に前足で服を引っ掛け、彼を担ぎ上げた。
腫れ上がった左足首を舐め上げるものも居る。
彼等は十六夜を食用としてではなく、
仲間として助けた…様に見えた。

* * * * * *

「リョウマ、ハヤト! 見付かったか?」
『マダ見付カンナイ…』
『崖が崩れてた。臭いが其処で途切れてる』
「崖から落ちたって事か…。
 この下は川が流れている。巧く行けば助かるが…」

朔耶は木々の合間から垣間見える空の様子を伺うと
迷う事無く下山を開始した。
十六夜が川に落ち、流されたと判断したのだ。

「急ぐぜ! リョウマ、ハヤト!!」
『主。ムサシは?』
「念を飛ばしておいた! 巧く師匠達と合流出来れば」
『了解した。ムサシなら師匠達を連れてくる』
「そう云う事だ!!」

雨がタイミングよく上がっているとはいえ、下は泥濘。
自分達も川に流されない様、慎重に下山する必要が有った。

* * * * * *

どの位時間が経過したのは、既に判らなくなっていた。
そんな中、先行して走っていたリョウマが何かを発見する。

「どうした、リョウマ?」
『ツイテ来イッテ言ッテル』
「ついて来いって…誰が?」
『判ラナイ。森ノ住民』

リョウマはそう言うと、
迷う事無くその住民と呼ばれる存在の後を付けた。

「森の住民って…あぁ、あのリスの事か」
『リョウマはまだ幼い。それ故、迷いも少ない』
「幼さも素直さと云う武器になるって事か」

朔耶は笑みを浮かべながら
ハヤトと共にリョウマの姿を追い駆ける。
徐々に草木が深く生い茂っていく。
人を排除するかの如く。
其処はまるで【緑の要塞】だった。

巨大なツキノワグマがまるで子供の様に抱き締めているのは
自分達が探し求めていた十六夜の姿であった。
ハヤトは事情を説明するべく動物達の前に進み出た。
この様な役目は幼いリョウマよりも
自分の方が適任であると判断したのだ。
動物達は全てを理解していたのだろうか。
朔耶達を排除する様な動きは一切見せなかった。

『主。彼等は『嘗ての礼をしただけだ』と言っている』
「嘗ての…礼?」
『十六夜は川の縁で気を失っていた。
 だから此処まで運んだ』
「そうか…。やはり、お前達が助けてくれたんだな。
 本当に…ありがとう……」

あの高さの崖から転落して、外傷は殆ど見受けられない。
正しく【奇跡】としか言い様の無い状況だった。
そして動物達の懸命の介護の御蔭で
体温の低下に見舞われる事も無かった。

目覚めた時、真っ先に朔耶を見る事が出来る様にと
動物達に促され、朔耶はそっと十六夜を抱き締める。
彼等の思いに、朔耶は感謝の念を抱いていた。
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