下半身が川の使ったままであるのを見付けると
熊は器用に前足で服を引っ掛け、彼を担ぎ上げた。
腫れ上がった左足首を舐め上げるものも居る。
彼等は十六夜を食用としてではなく、
仲間として助けた…様に見えた。
「リョウマ、ハヤト! 見付かったか?」
『マダ見付カンナイ…』
『崖が崩れてた。臭いが其処で途切れてる』
「崖から落ちたって事か…。
この下は川が流れている。巧く行けば助かるが…」
朔耶は木々の合間から垣間見える空の様子を伺うと
迷う事無く下山を開始した。
十六夜が川に落ち、流されたと判断したのだ。
「急ぐぜ! リョウマ、ハヤト!!」
『主。ムサシは?』
「念を飛ばしておいた! 巧く師匠達と合流出来れば」
『了解した。ムサシなら師匠達を連れてくる』
「そう云う事だ!!」
雨がタイミングよく上がっているとはいえ、下は泥濘。
自分達も川に流されない様、慎重に下山する必要が有った。
どの位時間が経過したのは、既に判らなくなっていた。
そんな中、先行して走っていたリョウマが何かを発見する。
「どうした、リョウマ?」
『ツイテ来イッテ言ッテル』
「ついて来いって…誰が?」
『判ラナイ。森ノ住民』
リョウマはそう言うと、
迷う事無くその住民と呼ばれる存在の後を付けた。
「森の住民って…あぁ、あのリスの事か」
『リョウマはまだ幼い。それ故、迷いも少ない』
「幼さも素直さと云う武器になるって事か」
朔耶は笑みを浮かべながら
ハヤトと共にリョウマの姿を追い駆ける。
徐々に草木が深く生い茂っていく。
人を排除するかの如く。
其処はまるで【緑の要塞】だった。
巨大なツキノワグマがまるで子供の様に抱き締めているのは
自分達が探し求めていた十六夜の姿であった。
ハヤトは事情を説明するべく動物達の前に進み出た。
この様な役目は幼いリョウマよりも
自分の方が適任であると判断したのだ。
動物達は全てを理解していたのだろうか。
朔耶達を排除する様な動きは一切見せなかった。
『主。彼等は『嘗ての礼をしただけだ』と言っている』
「嘗ての…礼?」
『十六夜は川の縁で気を失っていた。
だから此処まで運んだ』
「そうか…。やはり、お前達が助けてくれたんだな。
本当に…ありがとう……」
あの高さの崖から転落して、外傷は殆ど見受けられない。
正しく【奇跡】としか言い様の無い状況だった。
そして動物達の懸命の介護の御蔭で
体温の低下に見舞われる事も無かった。
目覚めた時、真っ先に朔耶を見る事が出来る様にと
動物達に促され、朔耶はそっと十六夜を抱き締める。
彼等の思いに、朔耶は感謝の念を抱いていた。