曰く付き

14. 虎徹(第弐幕)

ムサシと共に火産山登山口で待つ繊と神楽。
危険だからと乾月に言われ、
この地に留まってからかなりの時間が経過していた。

「寿星の奴、朔耶達と合流出来たんだろうか?」
「判りませんわね。何せ山中は広いですし」
「携帯電話を持ってたって
 電波が届かない可能性も有るもんな」
「えぇ」
「ん…。朔耶の奴、どうして火産山なんかに…」
「お仕事だとは伺っておりましたけど
 それよりも『呼ばれた』のかも知れませんわね」
「呼ばれた? 誰に?」
「強いて言うなら…この火産山に、でしょうか」
「成程ね」
「朔耶さん、そして十六夜さん。
 お二人共、この火産山には
 深い縁が隠されているのかも知れません。
 私達が窺い知れない『何か』が…」

「なぁ、ムサシ…だっけ?」
『如何にも』
「アンタさ、朔耶の気配を何か感じない?
 アイツの使い魔なんだろ?」
『誠に申し上げ難い事ながら
 大いなる気に阻まれ、主の気を探る事叶わず』
「大いなる気?」
火産山は太古より神聖な場とされていますからね。
 昔は入山そのものを禁じてもいました。
 巨大な気が結界となり、外界からの干渉を遮っていても
 不思議な事ではありません」
「もしかしてさ」
「?」
「乾月さんがアタシ達の動向を断ったのって…」
「えぇ。この地は女人禁制とされていましたから。
 尤も今ではもう解放されていますけど
 私達の様な能力者は影響を受ける可能性も考えられます」
「それならそうと言ってくれれば…」
「きっと、正直に言えば貴女が傷付くと
 乾月さんが配慮してくださったのでしょう」
「う~ん…」

複雑な表情を浮かべ、繊は再び視線を火産山に向けた。

* * * * * *

「十六夜月……」

雲間から姿を現した月を睨み付けながら
鳴神は九重を見下ろしていた。
注意して見れば微かにだが薄紫色の霞が漂っている。

「十六夜が復活するのが先か、それとも六条が先か。
 それ次第で俺達も腹括らねぇと駄目ってか」

鳴神の背後に近付いて来る人影。
特徴的な格好をした武人は無表情のままだ。

「お前の具現化まで載ってたとは驚いたぜ、【村正】。
 流石にこの街に結界を張った大陰陽師の遺した巻物」
『尤も【四神結界】は礼惟独りで成し遂げた訳では無いが』
「藤原 道栄(ふじわらの みちよし)…だったな。
 この二人が当時の都を守護した【陰と陽】か」
『如何にも』

意識体を維持したまま【村正】は九重を見つめる。
表情は変わらない様に見えたが、鳴神だけには伝わってきた。
彼の抱く【熱い】思いが。
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