【 虎 徹 】

14. 虎徹(第弐幕)

『人も捨てたものじゃない、だろう?』
『けっ、そんな大昔の事
 まだ覚えてやがったか』

細身な【虎徹】は優雅に笑みを浮かべ
【村雨】は調子悪そうに返答する。
確かに彼等は深い繋がりで結ばれている。

「【虎徹】…。
 何故、平 朔耶の記憶を?
 それに…十六夜の生命を奪えない、って」
『【陰陽鏡】の正統継承者の生命を護る為に
 私達は生み出されているのですから
 この方を死に至らしめる事等不可能なのです。
 それが【妖刀】とこの方との関係』
『一種の主従関係って奴だ。
 だから契約を交わさずとも
 十六夜だけは全ての【妖刀】を扱える』
「でも【虎徹】とは契約を交わしてたんだろ?」
『いえ、交してはおりません。
 あくまでも私の所有者は平 朔耶殿。
 そして…魂を同じくする貴方だけです』
『俺と戦った時の事を覚えてるだろ?
 つまりはそう云う事さ』

十六夜はこの事実を知っていたのだろう。
だから【村雨】と契約する時の戦いに於いて
彼は朔耶に【虎徹】を託した。
本来の持ち主であれば、
確かに【妖刀】を扱う事が出来るからだ。
朔耶が【虎徹】をその手に出来た時、
十六夜はきっと悟ったに違いない。
【蓮杖 朔耶】が【平 朔耶】であると云う事を。

『朔耶殿。先程の映像は嘗ての貴方の記憶。
 最愛の存在を残したまま
 死なねばならなかった貴方の無念が
 私と強く共鳴を起こした。
 そして、共に強く願った。
 この方を…十六夜様を御守りすると』

死しても尚、平 朔耶は十六夜を想い続けた。
独りで生きていかねばならない十六夜を
姿を喪った状態でも守り続けた。
そして今、その魂は肉体を得
蓮杖 朔耶として継承された。

言葉にすればそんな所だろう。
だが、朔耶はフッと鼻で笑うと【虎徹】に告げた。

「俺の想いは俺だけの物だぜ。
 魂は同じだとしても
 俺は転生したから十六夜に惚れた訳じゃ無い」
『承知しております』
「はっ?」
『【答え】を見せて頂きましたから』

二人の十六夜の間で揺れ悩んだ心を
【虎徹】は理解していると語った。
朔耶は【蓮杖 朔耶】として十六夜と出会い
そして愛し合う様になったのだと。

『朔耶。十六夜の答えは後で聞けば良い。
 彼奴が本当は誰を愛していたのか』

【村雨】はそう言ってウィンクを送る。
彼には相当自信が有るらしい。

十六夜は目を閉じたまま朔耶の腕に抱かれている。
しかし新たな出血は見当たらず、呼吸も穏やかになり
生命の危機からは脱している様子だ。
リョウマとハヤトも十六夜に擦り寄り
彼の傷付いた体を盛んに舐めて癒そうとしている。

「十六夜…」

彼は本当に【彼】なのだろうか。
もしも【彼】が目覚めたら
今迄自分の傍に居た彼はどうなってしまうのか。
様々な思いが朔耶の心を駆け巡っていた。
Home Index ←Back Next→