幽玄の月

14. 虎徹(第弐幕)

ずっと…夢を見ていた。

自分が其処に居るのか。
それとも、其処に居る自分を
自分が見つめているのか。

気怠さの先に薄らと見える光。
その先に待つ者こそが…答えを知る。

* * * * * *

「あれ? 彼奴は?」

朔耶はふと気付くと、
平 朔耶と思わしき武士の姿を見渡したが
彼の姿は何処にも見当たらない。

「【村雨】、【虎徹】。
 彼奴は、平 朔耶は何処に行った?」
『何処にって…なぁ?』
『解り易く言えば、
 二つに分かれた魂が一つに融合したのですよ。
 貴方の魂は今、完全な物となった』
「それじゃ、俺の中に?」
『そう云う事だな』
『彼は平 朔耶の姿をした貴方自身の記憶の一部。
 それが【月】の目覚めを誘う要因の一つ』
「【月】の目覚め?」
『【陰陽鏡】は本来二枚一組。お分かりですね』
「陰と陽…。そうか、だから【月】なんだな」

【虎徹】は静かに頷いている。
彼の言葉通りだとすれば、その言葉の意味は。

「【陰の陰陽鏡】が出現するって事か」

朔耶の呟きに【村雨】は【虎徹】の表情を見つめた。
先程と同じく笑みを浮かべてはいるが
同意する言葉は発していない。

『まだ【正解】とは言えねぇかもな』
「え?」
『まぁ頑張って【正解】を見付けるこった。
 なぁ~に、お前なら自力で出来るって』
「どう云う意味だよ、【村雨】?」

【村雨】は朔耶の問い掛けに答えず
そのままその場から姿を消した。

「ったく、都合が悪くなるとこれだ。
 良いよな、お前は!
 【気】に戻ってしまえば良いんだし」
『主、起キル!』

リョウマの鋭い声に朔耶はすぐさま反応した。
十六夜がゆっくりとだが重い目を開け、
意識を覚醒し始めていたからだ。

「十六夜…」

朔耶はそっと優しく声を掛ける。
彼が混乱しない様に、と。

「十六夜、俺が判るか?」
「…さく、や…」
「そうだ。朔耶だ」

十六夜の声のトーンが少し違っている。
先程迄とは違う、少し低く落ち着いた声。

「もう大丈夫だからな。
 お前は左足を怪我してる。それと胸部な。
 今から火産山を下りて叔父貴の所へ…」
「……」

十六夜は何も言わず、そっと朔耶の頬に手を当てる。
そのまま数回、そっと撫でると静かに微笑を浮かべた。

朔耶は知っている。この仕草。
今ではない。
遥か昔、よくこうやって彼を励ましてくれた事を。

「御子…?」

恐る恐る、朔耶は口にした。
平 朔耶と同化した今だからこそ、口に出来る単語。

十六夜は静かに首を横に振った。
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