定 め

14. 虎徹(第弐幕)

「お主を、巻き込みたくは無かった」

深く悲しげな十六夜の声が
静かに火産山に浸み渡っていく。

「あの時、お主を都に帰したかったのも…
 私の定めにお主を巻き込みたくなかったから。
 都の結界を護る定め、それは余りに重い。
 祖父上から聞かされた己の宿世を
 お主にだけは肩代わりさせたくなかった」
「だから、あの時 俺に帰れと告げたんだな」
「…そうだ」
「でも俺もあの時に言った筈だ。
 忘れたとは言わせねぇぞ、十六夜」
「……」
「俺は生涯お前と共に存在する。
 何者にも邪魔はさせない。
 どんな事が遭っても、俺はお前を護り続ける」

ハッキリと蘇った過去の記憶が朔耶を後押しする。

「俺が平 朔耶の転生だから言ってるんじゃない。
 【陽の陰陽鏡】が俺を選んだと言うなら
 俺もこの定めを『選んだ』んだよ。
 他ならない、この【俺自身】がな」

十六夜は驚いた表情を浮かべて朔耶を見つめている。
その表情にも見覚えがあった。
確かにあの時も、全く同じ表情を浮かべていた。
そして。

「後悔は、無いのか? お主は…」
「成長がねぇな、お前って奴は。
 千年経ったってのに
 全く同じ台詞吐きやがって…」
「……」
「後悔なら、もう散々したさ。
 お前を喪った直後から、ずっとな。
 更に言えば、お前を護れずに
 此処で死んだあの時から
 俺はずっと後悔し続けてきたんだ」
「朔耶……」
「俺にとっても後悔だらけの千年だった。
 まぁ俺の場合は
 都合良く忘れてた時間が長いけどな」

自嘲気味に笑みを浮かべると
朔耶は再度十六夜を抱き締める。
今度は優しく、慈しむ様に。

「お前にとって【陰陽鏡】は呪いだっただろう。
 だが、これからは違う。
 【陰陽鏡】は俺達を繋ぐ【絆】となるんだ」
「絆…?」
「そうだ。これでもうお前を手放す事は無い。
 お前が嫌だって言っても、俺はお前の傍に居る」
「…言う訳が無かろう」

十六夜は漸く苦笑を浮かべる事が出来た。
嘗ての自分とは全く違う朔耶の受け止め方に
十六夜も覚悟が定まったのだろう。

「俺の願いは『お前と共に在る事』だ。
 その願いは今、成就した。
 十六夜、お前の望みは何だ?」
「私も同じだよ。『朔耶と共に在る事』だ」
「それだけじゃないだろ」
「え?」
「今の俺なら解る。お前のもう一つの願い。
 そしてそれは又、俺のもう一つの願いでもある。
 きっとな」
「前世の記憶とは…便利な物よな」

軽口を叩きながらも十六夜は
そのまま朔耶の目を見つめ返した。
Home Index ←Back Next→