導きの下に

14. 虎徹(第弐幕)

火産山から下山すると其処には仲間達が居た。
全員で朝露のマンションへ向かい
朔耶は漸く其処で仲間達に全ての事情を説明出来た。
驚くべき事に仲間達はその内容を予め掴んでいた。
そう、弓の持参した巻物が彼等に真実を伝えていたのだ。

「お前の先祖の物持ちの良さには感謝だよ、全く」
「でも…巻物を書き上げたのは師匠の先祖でしょ」
「まぁね」

乾月はチラッと治療室に目をやると
何かを袖から取り出した。
弓が持参した巻物の一本を開き、読み上げる。

「【四神結界】を復活させる為に必要な物は以下の三点。
 二枚の【陰陽鏡】、五本の【妖刀】、そして【勾玉】」
「【勾玉】? 何処に在るんですか、それ?」
「判ってたら態々お前に聞かないよ」
「そりゃそうか。しかし【勾玉】ねぇ…」
「正しく【三種の神器】ですわね。
 太古の帝がこの国を興された時に
 使われた物に倣ったのかしら?」
「流石は神楽君だね。
 呪術ってのは手法が結構似通ってるから」
「こう云う話、俺お手上げ」
「退魔師なら少しは勉強しなよ、寿星」
「そう云うお前はどうなんだよ、繊?」
「得意な方では無いね。でも学ぶよ、今からでも」
「…俺も勉強すっか。苦手だけどさ」

【四神結界】と【三種の神器】。
遥か昔に聞き覚えが無いか、
朔耶は過去の自分の記憶に働き掛ける。
だが、明確な答えを見出せない。

「【虎徹】、居るか?」
『此処に』

朔耶の呼び掛けに答え、【虎徹】が姿を現す。
初めて見る【虎徹】の姿に寿星と繊は驚きの声を上げた。

「【妖刀】のお前達なら知ってるかと思って。
 【村雨】は知ってても答えてくれそうにないし」
『【村雨】の性格をよく御存じで』
「曲者で天邪鬼なのは人間でも知ってるからさ」

朔耶はそう言って横目で乾月を見た。
勿論、乾月は視線を反らしている。

『御期待に応えられずに申し訳御座いませんが
 我等【妖刀】は【四神結界】の詳細に関して
 何も聞かされてはおりません』
「お前達にも何も伝えられてなかったのか…」
『そう解釈して頂いて問題無いかと』

やはり事情を知るのは十六夜だけとなるのだろうか。
朔耶は腕を組み、唸り声を上げた。
その時、不意に玄関の扉が開く。

「此処に勢揃いか。捜したぜ」
「鳴神?」
「少しは見れる面になったな、朔耶」

憎まれ口を叩きながらも鳴神は嬉しそうだった。

「朔耶。十六夜が持ってた水晶の数珠、何処だ?」
「十六夜に返したよ。元は彼奴の物だし」
「って訳だ。これでこっちの駒が揃ったな、【村正】」

鳴神は背後に立つ【村正】にそう声を掛けた。

「まさか…あの数珠が【勾玉】なのか…?」
「俺も勘を働かせてみたんだがな。
 賀茂 礼惟が十六夜を継承者として選んだ以上
 奴だけに何かを持たせていたとしてもおかしくない。
 俺達が所持して無い物で
 奴だけが使える物は何だ?」

これは朔耶や乾月、神楽にとっても納得のいく推理だった。
たった一人、自力で此処迄考えを導き出した鳴神に
朔耶は生まれて初めて頼もしさを感じていた。
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