祖父 礼唯

15. 四神結界(第弐幕)

「【四神結界】を張る上で
 祖父も多大なる犠牲を払ったと述べていた。
 都を、其処に住む全ての生命を護る為に」

十六夜を襲う様々な過去の苦しい記憶。
それでも彼は言葉を紡ぎ続ける。
それこそが何よりも、
この戦いで喪った生命に対する哀悼だと信じて。

「敵は…人ではない。生物とも呼べない。
 その昔、人々はそれらをこう呼んだ。
 【百鬼夜行(ひゃっきやこう)】と」
「百鬼…夜行……」
「繊、驚いてるけど。それって…何だ? 【魔】の親戚?」
「寿星さん。解り易く言えば【魔】の集合体です。
 魑魅魍魎とも、妖怪とも鬼とも呼ばれてますが」
「【魔】の集合体?!」
「【魔】が人々のネガティブな感情、
 負のエネルギーを基に活動しているってのは解るよな、寿星?」
「はいな。それが集団でって云うと…」
「簡単に想像出来る事と云ったら、
 人同士で疑い合い、憎み合うだな。
 で殺し合いに発展し、やがては戦争…人類全滅」

淡々と述べる鳴神だが、却ってその方が恐怖心を仰いだらしく
寿星が顔面を真っ青にしている。

「百鬼夜行は静かに都を支配しつつあった。
 その侵入を感知した祖父は方々に協力を要請した。
 平家では大勢の若者を結果死に至らしめ…
 祖父と力を合わせたもう一人の陰陽師も
 その後行方知れずになったと聞く」
『その平家の若者ってのが俺達【妖刀】だからな。
 まぁその辺は気にしなくても良いぜ、十六夜』

【村雨】の慰めに十六夜は悲しげな笑みを浮かべるだけ。
朔耶は何も言わず、後ろからそっと十六夜を抱き締めた。

「祖父は…この結界が絶対の物では無い事を知っていた。
 人の力では、人以上の力を制御する事は出来ない。
 再び百鬼夜行がその脅威を示す前に、
 結界を張り直す必要が有る」
「だから礼惟は最も信頼のおける弟子に全てを委ねた。
 その弟子が間違い無く
 高い資質を持っていれば言う事は無い。
 十六夜だけがあらゆる事に精通していたのも納得だ」

乾月は十六夜の説明を受け、自分なりの解釈を続ける。

「礼惟は【陰陽鏡】、【妖刀】と密接に関わる人物だ。
 彼は百鬼夜行の事も何らかの形で知ったのだろう。
 其処から自分の人脈や知恵を使い、何とか抗おうとした。
 十六夜の発言からも判る通り、百鬼夜行は人を超えた存在。
 彼は或る意味、神の力と相対した事になる」
「破壊の神、か」
「もう一人の陰陽師、確か…藤原 道栄でしたわね。
 この方の行方は判らないと仰いましたわね」
「あぁ。祖父からはその様に聞いている」
「朔耶さんは何か御存じでは無いのですか?」
「気が触れて都を後にしたって噂位しか聞かなかったな。
 俺自身も幼い頃の話だし、定かでは無いんだが…」
「そうですか…」

神楽は何処かで腑に落ちないらしく、
盛んに首を捻っていた。
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