告 白

15. 四神結界(第弐幕)

「どうしたんだ、神楽? 何か疑問?」
「何とも後味の悪い引き際になってしまわれたと思いまして。
 しかし、正しく神との戦いと云うのであれば
 気が触れてしまう事も想像に難くは有りませんわね」
「六条の母親が【藤原】だからな。
 其方の線で百鬼との関係を睨んでもおかしくはあるまい」
「鳴神…?」

「少なくとも道栄自身は本気で都を護りたいと思っていたし、
 だからこそ政敵である礼唯と協力もしたんだろうが」
「鳴神。何でお前、藤原 道栄の事を…?」
「先祖だからな、俺の」
「?!!」
「別に今更隠し立てするつもりはねぇよ。
 少なくとも師匠は知ってる話だし、
 十六夜も感じ取ってただろうからな」
「感じ取ってはいたが、お主を疑う気は毛頭無かったぞ」
「でもどうして黙ってたのさ? 然も今更になって…」
「今どうしても必要な情報だから出しただけだ。
 不必要な情報だったら掲示しない。黙ってるさ」
「だからって…」
「繊、お止めなさい。私達だって、全てを明かした訳じゃ無い」
「神楽……」
「こう言われると解った上での発言ですもの。
 それが嘘では無い事位理解出来ますわ。
 御先祖様の件、誤解を致しました事をお詫び申し上げます」
「別に良いさ。誤解されるだけの背景は持ってるんだ」

神楽は鳴神の告白に後押しされる様に
懐から或る物を取り出した。
古めかしい冊子。

「私からは此方を。八乙女家に代々残される冊子です」
「これは…祭巫女の?」
「はい、乾月さん。
 現代の祭巫女の分迄 記載されております」
「現代って云うと、神楽ちゃんの代か」
「私は厳密に言えば
 【詠巫女(うたいみこ)】と呼ばれる存在です。
 祭巫女にはもう一人、
 【戦巫女(いくさみこ)】と呼ばれる方が居ます。
 その方と力を合わせる事で
 神を召喚する事が出来るとされているのです」
「神…。それが結界を生み出した神獣達だったんだな」
「朔耶さんの仰る通りですわ。
 ですから詠巫女自身は何度かこの世に誕生していますが
 戦巫女の出現は数える程しかない…」

朔耶、寿星、乾月、繊は冊子に目を通した。
其処に名前が記載されていたのは。

「宮原 千里(みやはら ちさと)? 誰だ、知らねぇぞ?」
「同じく…」
「これが本名だとすれば、
 当然 活動する際は偽名を用いると思うが」
「それって…アタシの名前……」
「?!」

驚きから口を両手で覆ったまま、繊が声を上げる。
自分自身、それが信じられないのだろう。

「何故…?」
『だからアタシが貴女を主に選んだ。
 そう言えば、お分かり?』

動揺する繊に優しく声を掛けるのは
初めて実体化した姿を見せた【陽炎丸】だった。

「【陽炎丸】…。アンタは知ってたの?」
『お嬢が生まれる前から。アタシの役目は祭巫女の守護』

【陽炎丸】はそう言いながら優しく微笑む。

『二人の巫女を、ね』
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