小さな光

15. 四神結界(第弐幕)

【陽炎丸】は涼しい表情を浮かべたまま
視線を十六夜に移す。

『八乙女の祭巫女を守護する事。
 それも貴方のお望み通り』
「あぁ…」

静かに昔を思い出すかの様に
十六夜はそのまま瞳を閉じた。

「喪う訳にはいかなかった。
 小さな、小さな光を二つ」
「その言い分だと、過去の戦乙女は…」

乾月の言葉に十六夜は小さく頷いた。
護りたくても守れなかった小さな光。
その光を消させない為にと十六夜が講じた策。
彼はやはり長い長い時間を掛けて
あらゆる策を講じ、この時を待ち続けたのだろう。

「それでも…護り切れなかった者達も居る。
 神楽、お主が悔やむ事では無い。
 全ては私に、私の策が甘かった事に在る」
「それって…アタシの両親の事?」
「…そうだ」

繊は十六夜と神楽を交互に見つめた。
そして最後にその視線は【陽炎丸】へ。

「皆…知ってたんだね。
 六条の狙いも、アタシの事も。
 両親は…アタシを護る為にあんな無茶したんだって」
「繊……」
「無茶だって、子供心に気付いたよ。
 力の差なんて、歴然としてたもん。
 勝てる訳無いって、逃げた方が良いって…。
 でも、父さんも母さんも逃げなかった。
 それはきっと……」
「……」
「アタシに逃げて欲しくなかったから。
 いつか判る自分の運命から」

繊はスッキリとした表情を浮かべ
そっと神楽の両手を掴んだ。
ずっと俯いていた神楽は
手を握られ、ハッとして繊を見つめ返す。

「御免な、神楽。
 ずっと苦しませてしまって。
 神楽も、知ってたんだもんね。
 アタシが…狙われていた事」
「繊……」
「神楽、祭巫女の事…嫌ってたよね。
 家を出るって言ったのも……」
「それは……」

【陽炎丸】は黙って二人を見つめている。
自分が護るべき存在を。

「だからさ。今度は二人で力を合わせないか?」
「?」

繊の突然の言葉に、神楽は戸惑いを隠せない。
驚いた表情で繊を見る。

「もうこんな思いを誰にもさせたくないから。
 アタシ達の手で、全てを終わらせよう。
 全てに、決着を付けよう」
「繊……」
「な、神楽」

そっと差し出された繊の右手。
神楽はその手を確りと握り返した。
そんな二人の手の上に落ちる飛沫が数敵。
神楽の、涙であった。

『お嬢達も決意が固まったみたいだし…。
 段取りに関してはアタシに任せてくれない?』

【陽炎丸】の提案に、十六夜は黙ったまま頷いた。
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