言 霊

15. 四神結界(第弐幕)

「あの巻物の文言…さ」

蓮杖神社を後にしようとする乾月の耳に
弓の静かで落ち着いた声が届く。

「ん?」
「朔が読み上げてくれて、良かったよ」
「あぁ、そうだね。
 これで礼唯の思いが言霊となった。
 この街は護れる。確信したよ」
「大切な言葉には魂を込めないとね。
 音入れは儀式。生命を吹き込む儀式。
 だからこそ、この国では言の葉を重宝する」

晴れやかな弓の横顔が月光に照らされる。
こうして見ると、
朔耶は確かに母親に似ていると感じる。

「【妖刀】と四神との繋がり迄は読めたが
 現状ではまだその力を行使出来ない。
 この認識で間違いは無いだろうね」
「その辺は【兼元】の方が詳しいんじゃないかい?」
「それもそうだ。【兼元】?」
『此処に』

それ迄 無言を通していた【妖刀 兼元】が
恭しく首を垂れる。

「十六夜の先程の言葉の通りだと
 お前と繋がっている四神は…玄武だね。
 そして彼の神はこの地に、
 蓮杖神社で眠っている」
『今、四神は封じられている状態。
 その楔を断ち切る為には
 唱と舞を捧げねばなりませぬ』
「そうか。だから祭巫女の存在が…。
 六条が彼女達を付け狙っているのも
 四神の復活を恐れての事か。
 中央に存在する筈の麒麟も同様なのか?」
『麒麟の封印が最も強固だとお考えください』
「だとすると…【虎徹】の目覚めが最も困難だな」
『……』
「【兼元】?」
『【虎徹】は既に力を取り戻しておりまする。
 そして【村雨】は最初から力を
 封じられてはおりませんでした』
「?! どう云う事だい?」
『【村雨】は血を同じくする者が
 継承すると見えておりました。
 其の者が龍の力を備えている事も』
「…朔耶が昇竜の彫り物を入れた時は
 莫迦な事をしたと思ったもんだが、
 思えばあの一連の行為は
 龍の力を受け継ぐ
 意味があったのかも知れないね」
『御意』
「では【虎徹】は?
 麒麟の封印が有る状態で
 何故【虎徹】の力は解放されているんだ?」
『神子の持つ勾玉は…
 代々の帝に受け継がれた物』
「あぁ。その様だね」
『この国が興される時、初代の帝は
 勾玉を手にされていたと言われております』
「麒麟は…【開祖の神】って事なのかい?」
「弓ちゃん?」
「そう考えると全ての道が繋がるんだよ。
 この国を作り上げる時に、人に力を貸した神。
 それが…麒麟だったとしたら」
「勾玉は元来、麒麟が所持していた物。
 そしてそれを十六夜が所持している…」

【兼元】は静かに頷いている。
二人の導き出した答えが正解なのだろう。

「成程。礼唯が十六夜君を【神子】と呼ぶ訳だ。
 確かに彼は開祖神 麒麟に選ばれた子だよ」

弓はそう呟くとゆっくりと視線を頭上の月に向けた。
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