襲 来

16. 出現(第弐幕)

あの会合から3日後。
其々が身支度を整え、蓮杖神社れんじょうじんじゃに向かう。
六条側が行動を起こす前に
勝負をつける必要があった。

寿星は弓から比礼を手渡され
その使い方を習っていた。

繊と神楽もそれぞれ
祭巫女の装束を身に付けている。

「さて、実際は
 どう戦術を組み立てるかね」

臨戦態勢の鳴神に対し
朔耶は自身の考えを口にしようとした。

その時である。

「地鳴り?」

寿星が先ず声を上げる。
音だけではない。
確かに地面も揺れている。

「でもこの感じ…地震とは違う様な?」
「!!」
「十六夜?!」

何かを察したであろう十六夜が
真っ先に境内に駆け出していく。
慌てて後を追う仲間達が鳥居に到達した時
彼等はその眼で【異常】を知る事となった。

「あれは…?」

巨大な黒い物体が幾つもの鎌首を上げて
ゆっくりと東から進んでいた。
赤黒くなった周囲の空気と
取り込まれていく青白い数々の光達。

「百鬼、夜行…」
「あれが?!」
「…現れおったか」
「先手を打たれた様だな…。
 敵ながら、恐れいったよ」

悔しそうに唸る十六夜と乾月。
百鬼夜行の姿に驚き、
声も出ない寿星。

「さて、どうする朔耶?
 六条は本格的にこの街を破壊し始めた」
「……」
「あの白いのは恐らく街の人間の魂だ。
 抵抗出来ない奴から喰われていく。
 正直、時間はねぇな」

鳴神は冷静に現状を述べているが
その言葉の端々に【怒り】が顔を出している。

九重ここのえを…落とすしかないな」

朔耶は静かに『それ』を口にした。
鳴神も沈黙したまま朔耶を見つめる。

「あの百鬼夜行は六条が召喚した。
 そう考えるのであれば…
 召喚者を倒してしまわない限り
 百鬼夜行を止める事は出来ない」
「強襲作戦か。
 しくじれば街は崩壊、だぜ?」
「解ってる。
 強襲するからには悟られない様に
 九重ここのえに侵入しなければ」
「それが多分、一番厄介だろうぜ」
「あぁ……」

朔耶は十六夜を横目で見た。
彼はまだ、
百鬼夜行の姿を追っている様だった。

『十六夜……』

どんな思いで
百鬼夜行の行為を目にしているのか。
ふとそんな事が頭を過ぎった。

「あの方向って、確か…」
火産山ほむすびやま、ですわね」
「でもあの場所には
 もう何も無いッスよね、兄ぃ?」
「いや…あの場所は……」
「師匠?」
「乾月さん?」
「百鬼夜行の狙いは…白虎?」

その場に居る全員が表情を強張らせた。
確かに四神の一角が崩れれば
結界を張る所か、維持すら出来なくなる。

「それだけではない」

一人だけ表情を変えなかった十六夜が
静かに全員に向き直って言った。

「白虎には、別の思いが込められておる」
「それって、一体…?」

繊は理解が出来ないと首を傾げた。
そのまま朔耶を見ると
彼は合点が行ったかの様に数回頷いている。

「そう云う事かい!
 だったら、尚更止めねぇと!」
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