演 舞

16. 出現(第弐幕)

十六夜達が目的地、火産山ほむすびやまに到着した。
此処から先は祭巫女である
神楽の知識に任せるしかない。
彼女は文献で学んだ通りの道筋で
【舞台】と思われる場所に彼等を導いた。

「此処から先、男子禁制となっております。
 寿星さん、この線より内には入れませんので
 何卒御注意くださいませ」
「つまり、このラインを踏み越えたら…
 俺自身が結界を壊しちまうんだよな……」
「いいえ。結界はそう簡単に壊れません。
 そうではなくて……」
「?」
「お前を傷付けたく無い。
 神楽は、結界がお前を攻撃する事を心配してる」
「繊…」
「【舞台】に上がれるのは祭巫女だけ。
 そして【舞台】を守る為に結界が生じる。
 結界は敵味方問わず、侵入する者を攻撃する。
 だから……」
「…なら、結界に認められる様に
 俺が此処を守れば良いって事だな」

理解出来たのか出来ていないのか。
寿星の笑みに祭巫女の二人は心配そうな表情を浮かべる。

「案ずるな」
「十六夜さん…」
「十六夜……」
「寿星の申す事を信じてやれ」
「「……」」
「白虎は寿星に牙を剥きはせん」

そう言って十六夜は懐から水晶の数珠を取り出した。
そのまま静かに、百鬼夜行を迎え撃つべく
一人静かに山を下りていく。

「十六夜っ!」
「二人を任せたぞ、寿星」
「当たり前だ! 直ぐにお前の応援に向かうからなっ!
 だから…簡単にやられるんじゃねぇぞっ!!」

寿星の声を受け、十六夜は静かに右手を上げた。

「では、参りましょう」

神楽はそう言うと、鈴の様な声で祝詞を唱える。
確かにそれは歌の様であり
彼女が【謡巫女】と呼ばれる所以でもある。
神楽の歌声に合わせる様に
地面から透明な壁が天に向かって伸びていく。
梵字の【サ】が所々に発光している。

「凄ぇ……」

繊は【陽炎丸】を構えると、神楽の祝詞に合わせて
ゆっくりと舞を始めた。
決して広くない【舞台】の上で
それでも彼女達は見事な歌と舞を披露する。
時折、二人の右手に填められた腕輪が
キラキラと輝いていた。
とても幻想的な光景に思わず見惚れてしまいそうだ。

「…っと! いかん、いかん。
 見惚れてる場合じゃねぇ。
 俺の仕事は……」

寿星を気を引き締めると、何枚かの呪符を取り出した。
十六夜の助言通り、この場所は彼の気と相性が良いらしい。
今迄に無く、気が充実しているのが判る。

「絶対に、護ってみせる」

寿星の覚悟に呼応するかの様に
一瞬だが、結界の色が黄色く変化したが
三人はそれに気付いていなかった。
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