様々な声が聞こえて来る。
呻く様な、泣く様な、叫ぶ様な様々な声。
「この姿を目にするのは流石に初めてじゃな」
十六夜はそう言うと、フッと笑みを浮かべた。
嘗て祖父が相対した負の化物。
千年の時を経て、その孫である自分が戦う事となる。
祖父が見た予知夢の通りに。
「だが、私は独りに非ず」
十六夜は静かに右手の数珠に念を送り始めた。
それと共に光り輝く【陰の陰陽鏡】。
「我が声に応え給えよ、麒麟」
やがて、数珠自身から眩い光が放たれ
周囲がその光に埋め尽くされていった。
「っ!」
「朔耶? 大丈夫か?」
「はい、大丈夫です 師匠。
…【陰陽鏡】が反応してる」
「いよいよ相対したな、十六夜が」
「……行こう。
俺達には立ち止まっている時間等無い」
迷いを断ち切る様に歩みを進める朔耶。
その後姿を見ながら乾月と鳴神は笑みを浮かべた。
「もう心配は要らないな。
朔耶も随分と逞しくなって」
「うかうかしてると置いて行かれるぜ、師匠」
「それは拙いな。
雑魚はとっとと蹴散らすか」
「あぁ。そろそろ本丸だからな」
「気を引き締めていくぞ、二人共。
間も無く帝の間だ。
其処に必ず、六条は居る」
朔耶の声に、二人は力強く頷いた。
光が静まっていく。
寿星は目を凝らしながら十六夜を見た。
本来ならかなりの距離と木々の障害で
見えない筈の彼の姿が手に取る様に分かる
「数珠が…、形が変わってる……」
円形の水晶で作られていた筈の十六夜の数珠。
その球の形状が明らかに変わっていた。
一つ一つが勾玉の形に変化していたのだ。
「三種の神器の一つ。
鳴神の兄ぃの予測通りだったんだ…」
数珠、勾玉の宝珠はその真なる姿を見せた。
「百鬼夜行!」
通る声で十六夜が叫ぶ。
「お主の狙いはこの勾玉であろう!」
百鬼夜行は鎌首を上げて不気味な雄叫びを放つ。
十六夜の目は百鬼夜行を捕らえたままだ。
「喰ろうてみよ、百鬼夜行」
勾玉の宝珠を握り締めた右手を前へ突き出し
十六夜は百鬼夜行を睨み付ける。
百鬼夜行は唸りながら首を振っている。
「お主の闇の力が勝つか。
それとも我が陰の力が勝つか。
力試しをしてやろう」
百鬼夜行は唸り声を上げながら
勢い良く鎌首の振り、そのまま十六夜を丸呑みした。
「十六夜っ?!」
一部始終、様子を見ていた寿星は
この顛末に驚きの声を上げた。