16. 出現(第弐幕)

朔耶達は遂に奥の間へと到着した。
帝の座には簾が掛かっており
奥の様子が伺い知れない。
手前には火産山ほむすびやまで朔耶が激突した
あの白装束達が控えている。

「六条!」

朔耶は【虎徹】の切っ先を簾に向ける。

「其処は手前が座する場所じゃねぇ」
『ようやっと現れよったか、平 朔耶』
「お生憎様! 俺は【蓮杖】 朔耶だよ」
『九条は我が手にあり』

簾の奥から聞こえる六条親王の言葉に
乾月と鳴神が思わず身構える。
しかし、朔耶は涼しい表情を変えぬまま
平然と言ってのけた。

「お前は十六夜と云う男の凄さを
 何も解っちゃいねぇ様だな」
『何と…?』
「死なせる訳ねぇだろ。この【俺】がっ!」

直後、朔耶の右胸が激しく輝き出した。
【陽の陰陽鏡】がその力を解放したのだ。
まるで太陽光線を思わせる輝きに
朔耶の後ろに位置していた乾月と鳴神も
思わず目を伏せた。

「六条。お前も知りたがってたよな?
 この【陰陽鏡】に隠されていた力を。
 ならば、タップリと見せてやるぜ!」

朔耶の両手にある【虎徹】と【村雨】が
その姿を気に変化させ、融合し
再度 彼の手に収まった時には
全く別の形状をして現れた。
やがて光はゆっくりと静まり
再び戦場は静寂に包まれた。

あやかしは其処迄か?』
「さぁな? 試してみれば?」

朔耶は新たに手にした刀を構える。
光線の直撃を避けた二人も、彼に習って構えた。

* * * * * *

百鬼夜行が十六夜を丸呑みにした様子を
祭巫女の二人も目撃していた。

「此方に向かって来る」

繊は覚悟を決め、【陽炎丸】を構えた。
百鬼夜行から放たれた飛翔体は
寿星の攻撃でかなりの数を撃ち落とされていた。
しかし、また弾は尽きる気配が無い。

「…白虎」

このままではいずれ結界も破られてしまうだろう。
その前に、寿星の体力・気力・霊力が尽きてしまう。

「お願いです、白虎。
 どうか姿を見せて……」

手を合わせ、祈る神楽。
すると。

「結界が…っ!」

結界が一条の光となって
大きく開いた百鬼夜行の口腔に飛び込んで行った。

「寿星!」
「寿星さんっ!」
「二人共、あれは…一体……?」
「判らない。初めて見る…」
「私も存じ上げません。ですが…」

神楽は光の飛び立った先を見ながら
静かにこう言った。

「あの光には『温かさ』を感じました」
「温かさ?」
「えぇ…。あの光は意思を持っている。
 きっと、十六夜さんを助けてくれる。
 私は、そう信じます」
「…そうだな」

三人はそのまま、迫り来る百鬼夜行に備えるべく
それぞれが臨戦態勢に入った。
Home Index ←Back Next→