胎動が聞こえて来る。
光が存在しない筈の空間で
十六夜は一人、漂っていた。
「光と闇は表裏一体」
闇に漂いながら、十六夜は呟いた。
静かな空間に、彼の声が響く。
「光を拒絶する事は出来ぬぞ、百鬼夜行」
返事は無い。
だが、百鬼夜行にも意思は存在するのか
胎動のリズムが激しくなった。
「聞こえるか、六条。我が兄上よ。
この恐怖、この悲しみが貴方の正体か」
今 自分が何処に立っているのかも掴み難い空間で
十六夜は難無く足をつけて立ち上がった。
「終わらせようぞ、この因果」
右手で握り締める勾玉の宝珠が
朔耶の【陽の陰陽鏡】と同じ様に輝き始めた。
それに連動するかの様に
彼の左胸に存在する【陰の陰陽鏡】が銀色の光を放つ。
そして。
黒一色の空間を引き裂く様に現れた一筋の光。
十六夜はその正体に気付いていた。
満面の笑みを浮かべ、歓迎する。
「待っておりましたぞ、神獣 白虎」
『神子よ。その声に応える時が来た。
さぁ、我が背に』
光は少しずつ、虎の姿に変化していった。
白虎。
祭巫女の二人の演舞に籠められた願いを聞き入れ
こうして今、十六夜の前に姿を現した。
白虎の咆哮が響き渡る。
その声が聞こえるのか、百鬼夜行の動きが変化した。
「百鬼夜行が…苦しんでいる?」
その変化にいち早く気付いたのは神楽だった。
百鬼夜行は大蛇の様な体を左右に激しく振り出した。
時折、尾の部分を地面に叩き付けている。
「あの光を食ってからだ。明らかにおかしい」
「じゃあ…十六夜は無事なのか?」
寿星は再度襲い掛かって来る飛翔体を
今度は比礼で撃ち落としていた。
自分が用意した呪符は既に使い果たしている。
慣れぬ比礼での攻撃だが
その破壊力は呪符を遥かに凌いでいた。
ただその分、疲労も激しくなっている。
「寿星! もう一人で頑張らなくても良いから!」
「私達もおります。共に戦いましょう!」
「神楽ちゃん、繊…。ありがとうな!」
三人に襲い掛かる飛翔体を連携して倒す。
十六夜のアドバイス通り、この場所は
寿星や神楽にとっては戦い易いらしい。
「見て!」
繊は百鬼夜行の動きが突然止まった事に気付くと
慌てて二人に声を掛けた。
「百鬼夜行か…止まってる?」
横倒しになった巨体。
そして、無数の光がその体の内側から漏れ出ていた。