真なる願い

16. 出現(第弐幕)

闇を引き裂く様にして
色取り取りの光が放たれている。
その姿を維持出来なくなった百鬼夜行は
苦しそうな咆哮を上げている。

「百鬼夜行が…消えていく?」
「核となる部分が消え去った為
 姿を留められなくなったのでしょう」
「じゃあ、奴に捕らえられていた魂も…」
「まだ食われていなければ、
 元に戻ると思われます」
「良かったぁ~~~!!」
「…十六夜は?」

繊は心配そうに光の中心を見つめている。
その横顔に、今迄は見る事も無かった
彼女の別の表情を神楽は見出していた。

「繊…。貴女、もしかして…?」
「?」

繊が神楽の方を振り返った直後、
ドーンという大きな衝撃音が周囲に鳴り響いた。

「何だっ?!」

寿星が目を凝らす。
ゆっくりと此方に向かって来ている姿。
光が落ち着いてきて、漸く確認する事が出来た。

「十六夜だ…」
「隣に居るのは…」
「四神、白虎…。
 私達の願いを聞き入れ、
 現世に姿を見せてくれたのですね……」

* * * * * *

ゆっくりと此方に向かって来る十六夜の姿は
今迄自分達が知るそれとは何かが違っている。

「…御子」

違和感を繊が素直に口にする。

「こうやって見ると…やっぱり
 十六夜は九条尊、御子…なんだな……」
「繊……」
「アタシ達とは住む世界の違う存在……」
「繊、それは…」
「それは違うぞ、繊」

繊の不安を否定したのは十六夜本人だった。
真剣な表情で真っ直ぐに彼女を見つめている。

「十六夜……?」
「九条は嘗ての名ではあるが
 今はもう使っておらぬ。
 玄武帝から次の帝へと繋がれ
 歴史が築かれた以上…
 最早、その名に意味も無い」
「……」
「私は、私だ。
 今の私は【十六夜】である」

強い男だと、つくづく思う。
過去を乗り越え今を、そして未来を生きる決意。
其処に否定は一切無く、事実を全て受け入れ
更にその先を目指すのみ。

「さて」

十六夜は静かな笑みを浮かべている。

「この場を鎮める事は出来たが
 まだ街を救った事にはならぬ」
「そうか! 六条!!」
「では、私達も九重ここのえへ…」

神楽の言葉に対し、何故か白虎は首を横に振った。

「白虎? 何故…?」
『彼の地は大いに穢れておる。
 魑魅魍魎が跋扈し、腕に覚えの有る者以外は
 奴等の餌にされてしまうやも知れん』
「妖刀を持っていても、駄目なのか?」
『【陽炎丸】にはもっと相応しい場所が在る』

白虎はブルッと小さく身震いすると、空を見上げた。

『結界を修復するよりも
 いっそ、張り直した方が良さそうじゃな』
「白虎…。では…」
九重ここのえは神子に一任せよ。
 お前達はその力で
 我が兄弟を目覚めさせるのだ』
「「!!」」
「結界で六条の【力】を抑え込む」
「十六夜…」
「彼の者を操る存在を
 何としても暴かねばならぬ。
 同じ過ちを繰り返さぬ為。
 そして…」

十六夜は白虎を見つめ、静かに微笑んだ。

「因果に囚われた我が兄
 六条の【魂】を解放する為に……」
「「……」」

深く、静かなその声に
神楽たちは漸く、十六夜の真の狙いを察した。

千年の時を経て、彼が叶えたかった【願い】。
その強く優しき思いに触れ
特に繊は今迄感じた事の無い胸の温かさを覚えた。
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