主の帰還

17. 正体(第弐幕)

激しい金属音が響き渡る。
人を超えた力で魔剣を振るう六条親王に対し
策はや真っ向から受け止める事はせず
敢えてその力を軽くいなしていた。
玄武帝が見込んだ天性の剣戟の才能。
転生した身でありながらも
朔耶の動きは前世の彼と
寸分の狂いも無い。
強いて付け加えるのであれば
今の彼は大人として
少々『狡い』駆け引きが使えると云う事だ。
平 朔耶が青竹の如く真っ直ぐな戦い方ならば
蓮杖 朔耶のそれは柳の様に掴み処が無い。

『成程、そう云うカラクリだったって訳か』

百鬼夜行の影響力が低下した為
六条親王の【正体】が
朔耶の目にも留まる様になってきていた。

『惨い事しやがる』

彼はふと、十六夜の言葉を思い出した。
『倒したい』ではなく『救いたい』と云う
願いの言の葉。
その真なる意味。

『陰の術法を用いての…ならば
 確かに十六夜の方が
 先に真実に辿り着くよな』

悪鬼の形相で朔耶に襲い掛かる六条親王は
自身の体の異変にまるで気付いていない。

* * * * * *

不意に背後から清らかな風が引き込んで来た。
六条親王の後ろに位置する御簾が
スルスルと自ら上がっていく。
廊下、そして部屋が
後殿の入り口から順々に灯りで照らされ
光の道を作っているかの様だった。

あるじ殿の御帰還だ」

乾月が笑みを浮かべてそう言った。

「この場所、九重の後殿の方が理解していた様だな」
「あぁ。或いはこの地に眠る麒麟の意思か」
「……」

昨夜は突然妖刀を鞘に納めると
踵を返し、数歩進んでから膝をつき
恭しく首を垂れた。

「…少々、大袈裟じゃな」
あるじの御帰還とあれば
 これは極当然の事。それに」

朔耶は顔を上げるとウィンクした。

「これが、嘗ての俺の【願い】だった」
「朔耶…」
「【平朔耶】の願いは
 今、ここに成就された。
 次はお前の番だよ、十六夜」

十六夜はニコッと微笑んだ。
彼の右手には本来の姿に戻った
勾玉の宝珠が握られている。
七色に光り輝く宝珠の姿。

「やはり、持っておったか」

憎々しげな六条親王の声。

「父、玄武帝より賜った大切な宝。
 この地に漸く三種の神器が揃った」

十六夜の左手から炎が舞い上がり
やがて見事な真紅の日本刀へと変化する。

「あれ、【陽炎丸】?
 それ、繊の妖刀じゃ…?」
「彼女から借り受けた。
 想いと共に、な」
「ん?」
「まぁ、良い。
 繊・神楽。そして寿星。
 皆、共に戦っていると云う事じゃ」
 
十六夜は表情を変える事無く
視線を六条親王へと移した。

「千年の時空ときを超えても
 其方そなたが手に入れられなかった【宝】」

六条親王は何の事か解らず首を傾げている。

「そう。今の其方には解るまい。
 何故なら」

そう言うと、十六夜は突然
袈裟懸けで六条親王に斬りかかった。
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