人を超えた力で魔剣を振るう六条親王に対し
策はや真っ向から受け止める事はせず
敢えてその力を軽くいなしていた。
玄武帝が見込んだ天性の剣戟の才能。
転生した身でありながらも
朔耶の動きは前世の彼と
寸分の狂いも無い。
強いて付け加えるのであれば
今の彼は大人として
少々『狡い』駆け引きが使えると云う事だ。
平 朔耶が青竹の如く真っ直ぐな戦い方ならば
蓮杖 朔耶のそれは柳の様に掴み処が無い。
『成程、そう云うカラクリだったって訳か』
百鬼夜行の影響力が低下した為
六条親王の【正体】が
朔耶の目にも留まる様になってきていた。
『惨い事しやがる』
彼はふと、十六夜の言葉を思い出した。
『倒したい』ではなく『救いたい』と云う
願いの言の葉。
その真なる意味。
『陰の術法を用いての…ならば
確かに十六夜の方が
先に真実に辿り着くよな』
悪鬼の形相で朔耶に襲い掛かる六条親王は
自身の体の異変にまるで気付いていない。
不意に背後から清らかな風が引き込んで来た。
六条親王の後ろに位置する御簾が
スルスルと自ら上がっていく。
廊下、そして部屋が
後殿の入り口から順々に灯りで照らされ
光の道を作っているかの様だった。
「
乾月が笑みを浮かべてそう言った。
「この場所、九重の後殿の方が理解していた様だな」
「あぁ。或いはこの地に眠る麒麟の意思か」
「……」
昨夜は突然妖刀を鞘に納めると
踵を返し、数歩進んでから膝をつき
恭しく首を垂れた。
「…少々、大袈裟じゃな」
「
これは極当然の事。それに」
朔耶は顔を上げるとウィンクした。
「これが、嘗ての俺の【願い】だった」
「朔耶…」
「【
今、ここに成就された。
次はお前の番だよ、十六夜」
十六夜はニコッと微笑んだ。
彼の右手には本来の姿に戻った
勾玉の宝珠が握られている。
七色に光り輝く宝珠の姿。
「やはり、持っておったか」
憎々しげな六条親王の声。
「父、玄武帝より賜った大切な宝。
この地に漸く三種の神器が揃った」
十六夜の左手から炎が舞い上がり
やがて見事な真紅の日本刀へと変化する。
「あれ、【陽炎丸】?
それ、繊の妖刀じゃ…?」
「彼女から借り受けた。
想いと共に、な」
「ん?」
「まぁ、良い。
繊・神楽。そして寿星。
皆、共に戦っていると云う事じゃ」
十六夜は表情を変える事無く
視線を六条親王へと移した。
「千年の
六条親王は何の事か解らず首を傾げている。
「そう。今の其方には解るまい。
何故なら」
そう言うと、十六夜は突然
袈裟懸けで六条親王に斬りかかった。