麒 麟

17. 正体(第弐幕)

「何だ? 幽体離脱?」
「似てるっぽいけど、どうやら違う様だ」
「妖刀を通じて神の世界とリンクしてるっぽいな。
 だから幽体離脱の感覚と似てるんだろ、多分」

初めての体験に少し焦っている
朔耶・乾月・鳴神。
一方、十六夜は。

「お初にお目にかかります。
 開祖神 麒麟。
 私は玄武帝の次男、十六夜と申します」

彼の目の前には
光で包まれた何者かが存在している。
光が眩し過ぎて
肉眼では確認出来ない。

「千年もの間、
 この地で都をお護りくださいまして
 大変感謝しております。
 しかしその間、貴方様を人間の都合で
 この地に留まって頂かなくてはならなくなった事を
 本当に申し訳無く感じております…」
『十六夜。存じてますよ』

鈴の音の様なとても柔らかな声が聞こえてくる。

『この地にこの身を封じたのは
 お前ではありません。
 他の者の責迄負わずとも良いのです』

麒麟の声が心の隅々まで
優しく染み渡っていく。

『十六夜よ。
 此処迄辿り着いた事、称賛に値します。
 お前の願い、それを成し得る為の助言を
 お前に授けましょう。
 お前の願いは、お前の力で成し得るのです』
「ありがたき幸せ」
『今のままでは
 百鬼夜行の守りの堅固さから
 【核】を破壊し、想い人の魂を解放する事は
 非常に困難でしょう。
 『術には術で対抗すべし』と思わぬ事です。
 …しかし』
「……」
『念じる心、人の齎す想いの力は
 時として、信じられぬ程強大となる。
 お前の、お前達の想いが
 幼児を思う【母親の情念】を上回れば
 【奇跡】は【現実のもの】となる』
「母親の情念…?
 まさか、この術法の【核】となったのは……」
『六条親王の母、丹羽の中宮の念』
「…恐れていた事が現実だったとは……」

十六夜は見るからに落胆していた。
母親の、息子を想う気持ちが
愛する息子の魂を人形に封じ込める
【楔】となっている。
それを断ち切らなければ
六条親王は本当の意味で救われない。

「救ってみせるさ」

そう言い切ったのは朔耶だった。

「麒麟の言う通りだ。
 人の想いは強力な力となる。
 母親の情念を上回る力を
 俺達が証明すれば良い。
 【力】を見せろと言うなら
 見せてやれば良いんだ。
 六条が俺達を信じても良いって
 思えるだけの【力】を…な!」
「朔耶…」
「そう云う事だね。
 やる前から諦める事は無いさ。
 幸い、術の【肝】は判明したんだ。
 それ即ち【弱点】って事だからね」
「乾月…」
「要は暴れ足りねぇんだよ。
 奴も、俺達も。
 発散したら案外自分から
 柵を飛び出して来るかもよ?」
「鳴神……。そうじゃな。
 此方側が楽しいと云う事を
 兄上にお知らせせねば」
「そう言うこった!!」

朔耶の言葉の直後、再び景色が変わった。
正しくは、少し時間が巻き戻った。
それを証拠に、六条親王の右頬の傷が
今は存在していない。
十六夜が斬りつける直前に戻ったのだろう。

「さぁ~って、此処からが本番だぜっ!!」

朔耶・十六夜・乾月・鳴神が
六条親王に向けて一斉に抜刀した。
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