繋ぐ未来

17. 正体(第弐幕)

「終わったんだな、これで」

朔耶はそう言って十六夜の方を振り返った。
しかし、十六夜は先程迄の柔和な顔と打って変わって
険しい表情を浮かべていた。

「十六夜?」
「まだ終わってはおらぬ」
「何だと?」
「兄上の魂は漸く解放された。
 だが、誰が如何様にして
 この様な残酷な仕打ちを行ったのか。
 その目的も何も、まだ判っておらぬ」
「…確かに、そうだな」
「それと…丹羽の中宮の事に関しても」
「彼女は被害者なのか。
 それとも、加害者なのか…だね」
「あぁ」
「彼女がもし黒幕だったとしたら…
 確かに、そう簡単に幕引きとはいかないだろう」
「…その辺の事も探らないとって事か」
「そりゃそうだろ。
 悠長に結界を張ってる場合じゃねぇ。
 最中に邪魔されちゃ敵わんからな」
「…成程」

確かに、皆の言う通りだ。
自分達は今漸く
スタートラインに立てた状態なのかも知れない。

「結界の再構築。
 もう少し先の話になりそうだな」

朔耶は雨雲の狭間から見える太陽を眺めながら
そう呟いた。

* * * * * *

「十六夜君」

大激闘の晩、皆で祝勝会を開いた。
一人、屋根に上り月を見上げる十六夜に
そっと声を掛けてくる人物。
弓だった。

「母上様」
「今はそう云うの、無しにしない?」
「…では、弓殿。どうなさりました?」
「【先見】の内容を、アンタに伝えておこうと思ってね」

弓は真剣な表情で十六夜を見つめた。

「残念だけど…
 アンタ達の時代で、結界を張る事は叶わない」
「…やはり、そうでしたか」
「知っていたのかい?」
「恐らく、同じ【先見】を私も見たのでしょう。
 朔耶と私は共に【男】として生まれてきました。
 【陰陽鏡】を正しく扱う為には、まだ相応しくない。
 陰陽は揃わなければならない」
「…だけど、アンタ達の目に見える範囲で
 この願いは成就される、とも出てるんだ」

弓はそう言って、優しく微笑んだ。

「十六夜君。
 この神社を、継いでくれないかな?」
「私が、ですか?
 しかし…朔耶は?」
「あの子は継げない。
 ううん。
 もっと他に、救わなければならない場所がある。
 私は朔耶を、その場所に送り出したいと思ってる」
「……」

十六夜は視線を弓から頭上の月へと映した。
名前と同じ月が夜空に浮かんでいる。

「返答は、後日でも宜しいか?
 暫し考えさせて頂きたい」
「勿論だよ。満足いく迄 悩み考えて欲しい」

二人はそのまま黙って月夜を見上げていた。
心に去来するは、この先の未来の事。
過去から連なった時間が
今、未来へと動き出していた。
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