退 魔

2.退魔師(第壱幕)

「朔耶」

乾月が去って暫くしてから、十六夜はふと声を掛けた。
その表情はやはり重く、鋭い。

「お主も、【退魔】の仕事を請け負うのか?」
「一応ね。
 本業はカメラマンって事にしてるけど」
「キャ、メラ…?」
「カメラマン。あ、カメラって知らないか?」
「魂を吸う機械の事であろう。それ位は知っておる」
「…違うんですけど」

大昔の迷信を何故か信じているらしい。
本当に十六夜は一体幾つなのだろうか。

「で、それがどうしたんだ?」
「一人で請け負っているのか?」
「今は寿星と組んでるよ」
「そうか」
「そっち方面じゃ大先輩みたいだな、お前。
 あの師匠と組んでたって言うんだから」
「……」
「なぁ、十六夜」
「何だ?」
「一つ、聞いても良いか?」
「質問の内容にもる」
「じゃあ、年齢…幾つ?」
「歳か?」
「あぁ」
「200と50は越えておるな」
「200と50…って、250歳っ?!」
「その位迄は数えておったが、流石に面倒になってな。
 今は幾つになったか等覚えておらん」
「…にわかには信じられねぇ話だな」
「ならば、信じなくても良かろう」
「そうはいかねぇよ」
「何故?」
「だってさ。折角お前が話してくれた事だぜ。
 俺は何が遭ってもお前を信じる」
「殊勝な事だな」
「そうかぁ~?」

十六夜は小さくフフっと笑みを漏らした。
やはりその一寸ちょっとした仕草でさえも
何処と無く気品をかもし出している。

「だがな、朔耶」
「ん?」
「裏家業で請け負うとしてもだ。退魔を甘く見てはならんぞ」
「十六夜…」
「【魔】は事も無げに人を喰らう。時には仲間を、そして家族を。
 【魔】に喰われし者は、新たな【魔】と成り お主達に牙を向く。
 その時、お主ならばどうする?」
「…その時、か」
「考えておく事だな」
「…解った」

今迄はそれ程重くは考えた事等無かった。
自分達が担当した仕事内容も
恐らくはそれ程危険なたぐいでは無かったからだろう。
だからこそ、自分よりも遥かに長く
退魔業に携わっているらしい十六夜の言葉には
其処彼処そこかしこに重みと悲しみが滲み出ていた。

「俺としては、お前と一緒に組めたら最高かな?
 とも思ってるんだが…
 余り気乗りしてないみたいだもんなぁ~」
「ワシとて好き好んでこの生業なりわいをしている訳ではない」
「…不可抗力?」
「そう受け取ってもらっても結構だ」
「…そっか」

少しは解り合えそうな気がしていた。
だが、十六夜の心の扉を開くにはまだまだ時間が掛かりそうだ。
朔耶は青空の見える窓を見上げてそう思った。
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