焦 り

3. 好敵手(第壱幕)

「何用だ?」

いつもと変わらない表情とぶっきら棒な物言い。
思わず苦笑を零しながら乾月は十六夜の髪を撫でる。

「そう言いなさんな。今日はお前の力を借りに来たんだ」
「何?」
「久々にお前の【腕前】を見せてもらいたい」

一瞬、乾月の目が鋭くなる。獰猛な狩人の様な視線。
その表情だけで十六夜は何かを察したらしい。
同じ様に苦笑を浮かべながら静かに軽くだが頷いた。

* * * * * *

「あれ?」

寿星が何かを見付けたらしい。
怪しげな気配を背負う人影。それも複数。

「兄ぃ、アレって…人間、じゃ…」
「ねぇな」
「やっぱり」
「見付けたからにはヤるしかねぇか」
「しかし数多いッスよ。20体は有るんじゃないですか?」
「…確かにな。でも、今ヤれるのは俺達しか居ねぇ」
「兄ぃ…」
「覚悟、決めるぞ」
「…はいな!」

少しずつ距離を詰める程にその姿がハッキリと確認出来た。
打ち捨てられたマネキンの中に悪霊の類が入り込んだのだろう。
無表情ながらも光る目に只ならぬ【悪意】を感じた。

「だから何でも捨てるなと…」

チッと舌を鳴らし吐き捨てると
朔耶は先頭集団の中に身を躍らせる。
そのまま足技を駆使してマネキンの頭部を蹴り飛ばす。
寿星も又 器用に攻撃をかわしながら
手製の呪符を貼り付けていった。

「あれ?」
「何だ?」
「札の効きが悪い…」
「何だって?」
「貼ってるんッスけど…止まってないッスよね?」
「あぁ、動きっ放しだ」
「…ヤベェ。俺、霊力切れたかも……」

依頼を終えて帰宅の徒につく最中の出来事である。
寿星の霊力が尽きるのも無理はない。
其処迄配慮出来なかった事で
更に朔耶の苛立ちが高まっていく。

(何やってんだ、俺はっ?!)

襲い掛かってくるマネキンの頭部をパンチで粉砕する。
それでも、動くマネキンの数を減らした事には繋がらない。
怒りや憎しみをバネにした所で
この程度の破壊力止まりなのだ。

「ざけんじゃねぇぞ、テメェ等っ!!」

怒号と共に放たれる朔耶の気の圧力プレッシャー
流石のマネキン達もこの気の圧力には多少ながらも動揺したのか、
少しずつ動きが鈍くなっていく。

「この程度でな、参ってられねぇんだよ!
 俺はな、強くならなくちゃいけねぇんだっ!!」

まるで自分に言い聞かせる様に。
朔耶は怒号を上げると更にマネキン軍への攻撃を強めた。
全てを粉々に打ち砕くかの様に。

それは余りにも【無謀】な戦いに見えた。
Home Index ←Back Next→