3. 好敵手(第壱幕)

季節外れの雷がその場に落ちたのは丁度その時だった。

直撃を避ける為に後ろへ大きく跳んだ朔耶。
先程迄相対していたマネキンが嫌な臭いを放ちながら溶けていく。

「これは…?」
「操り人形如きで苦戦するとは貴様等、大した事無いな」

声のする方向に視線を向けると
ラフな格好をした青年が不敵な笑みを浮かべて立っていた。
その手に握られる刀身からは黄色い光がバチバチと輝いていた。

「…鳴神」
「鳴神の兄貴…」
「久しぶりだな、朔耶に寿星。お人形さんの相手は楽しかったか?」
「鳴神、お前…」
「廃棄処分の人形なんざ、焼き払っちまえば良いんだ。中身ごとな」

フフッと笑みを浮かべながら
鳴神と呼ばれた青年は握り締めた刀を頭上に翳す。

「拙い! 寿星、下がれッ!!」

暗雲が瞬時に立ち込める。
直後に訪れるものを察知して朔耶は寿星に【避難】を促した。
寿星も彼の言葉に従い 朔耶同様、その場から離れる。

巨大な雷がマネキン群の中央に落ちたのは
彼等が避難した直後だった。
燃え盛る炎の中で悲鳴が木霊する。
マネキンと共に除霊されているのだ。

「ほい、掃除完了」
「鳴神! お前は…こんなデカい術を行使したら
 街にどんな影響を及ぼすと…っ」
「掃除は速く確実にするに限る。
 貴様等みたいにチンタラしてたらそれこそダメージがデカいっての」
「だが他にも方法は有ったろうが!」
「何も出来ない奴に言われたくないね」
「くっ…!!」
「悔しいなら俺より強い術師に成ってみろ。
 成れないから今が在るんだろ」
「……」
「この程度、遊びにもならん」
「鳴神っ!!」

勝ち誇った様な表情と笑い声。
今の朔耶達ではこの男、
鳴神なるかみ のぞむに意見する事等出来なかった。

* * * * * *

ボロボロで疲れ切った酷い有様。
何とか家路に着くと鳥居の前には見慣れた人影が立っていた。

「十六夜…」
「お帰り」

『何が遭った?』とは聞いてこない。
彼なりに何が遭ったかは既に察知しているのだろう。
確認してこない所に十六夜の優しさを垣間見
その優しさに甘えるしかない自分の脆さに
朔耶は歯噛みして悔しさを堪えた。

「無邪気ないかずちだったな」
「…十六夜?」
「だが、無邪気故に【恐怖】を知らぬ。
 恐れを知らぬ魂は無謀な戦いを挑み
 やがて【恐怖】に飲み込まれて消滅する」
「……」

【予言】にすら思える独り言。
静かにそう呟く十六夜の表情には何ら変化は見出せない。
逆にその【動じない姿】にこそ、朔耶と寿星は【威圧感】を覚えた。
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